ある日、刑務所から「刑務官から虐待を受けて社会への憎悪が強まった。出所後に何をしでかすかわからない」などと脅しのような手紙を送ってきた。慌てて面会に行くと、「もう死にそうです。なぜ私がこんな辛い目に遭わなくてはいけないのか」と涙ながらに訴えてきた。

「いやいや、あなたがやったことで今も苦しんでいる人たちがたくさんいるんですよ」ということも告げても、「それはそれ、これはこれ」という感じでまったくピンときていない。映画やドラマで見かける、「被害者への謝罪と反省の日々」のかけらも感じられない、とにかく「自分、自分、自分」なのだ。

 そういう「強烈な自己愛と被害者意識」は今回の被疑者にも見られる。なんの罪もない小学生の命を躊躇なく奪おうと思ったのは、「人生に失望して、かわいそうなオレ」で頭がいっぱいで、それ以外の人間の命などどうでもよくなっているからなのだ。

 そこに加えて、今回の容疑者の供述を聞いて、個人的に感じるのは、「典型的なインセル犯罪者だな」ということだ。

 インセルとは「Involuntary celibate」(不本意の禁欲主義者)の略。もともとはネット上で使われていた用語で、「イケメンでもなく、経済的に裕福でもないため、女性と深い関係になれない男性」を指す。要するに「非モテの独身男」だ。

 ご存じの方も多いだろうが今、そんな「非モテの独身男」による無差別殺傷事件が世界的に増えている。主に欧米の先進国で「インセル」を名乗る人々が、車で歩行者を次々と跳ねたり、銃を乱射したりする事件が続発している。

 そんな「インセル犯罪者」の犯行動機のひとつが、「自身の不遇や社会に対する不満」だ。世間では「女性にモテない」というと、「それはお前の努力が足りないからだろ」となるが、インセルたちは「イケメンや金持ちになびく女性が悪い=こういう不公平な構造をつくった社会が悪い」と考える。

 この傾向は日本でも見られる。例えば、2021年には小田急線の車内において36歳で無職の男が20歳の女子大生に包丁で襲い掛かり、複数の乗客も切りつけた。このときも犯人は社会や女性への憎悪を口にしている。