
――売却時のルールは?
安西 想定通り順調に株価が上昇し、PERやPBR、配当利回りが市場平均、業種平均を超えてきた時にどうするのか。実はこの時に、再調査を行って、保有方針を再検討するんです。今後の成長が見込め、それに対して割安だと判断すれば、保有を継続します。結果として、上昇が続くような銘柄を取り逃さず、また売買回転率が下がることもプラスに働きます。一般的なバリューファンドだと機械的に売ってしまう場合が多いので、そこは1つ特徴ではないかと思います。
「変化の兆し」を先回りして捉え
波に乗る企業に投資する
――柔軟な運用が、どんな時でも好成績の秘訣といえそうです。もう一点、“カタリストを重視する”ことが特徴だと思いますが、この点を解説してください。
安西 バリュー株投資の一般的なリスクとして、「バリュートラップ」があります。業績がパッとしない、もしくは株価が見直されるきっかけがなくて、割安なままずっと低迷してしまう。カタリストとは「変化の兆し」のことで、割安解消の背景となるきっかけです。そうした株価が見直されるきっかけを持つ銘柄の発掘に注力し、バリュートラップを回避しています。
カタリストは大きく分けて2つあります。1つは「外部要因」(マクロ要因)で、「政策の変化」や、「技術革新」「消費・社会構造の変化」などです。それらの波に乗っていける会社を選びます。
例えば、かつての銀行株は、バリュートラップにはまっていたと思います。しかし、金融政策の変化によって、利ザヤが確保しやすくなりました。加えて、2021年の後半くらいから、欧米でインフレが加速し始めた。確信に変わったのが2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、世界的に資源価格や穀物の価格が上がった。日本人はあまり感じていなかったのですが、これは考え方を変えないといけない、今転換点の可能性があるとみて、金融関連で非常に多くの銘柄を追加投資しました。
――2022年でも、日本ではインフレ転換にまだまだ半信半疑でしたよね。
安西 そうですね。ただ、世界的におそらく30~40年ぶりの本格的なインフレで、日本一国だけが抗える変化ではなかった。実感したのは、そういう時って賃金が安いところから変化してくんですよ。アルバイトや、短時間労働や、正社員であれば若年層のほうから。自分の会社の初任給を見ていても、“これはちょっと変化が出てきたぞ”と。また、飲み屋のアルバイト募集の時給がどんどん上がっていることなども見て、徐々に確信に変わっていきました。
他の例としては、「経済安全保障」という観点がここ数年出てきました。地政学リスクの悪化などの中で、政策の後押しもあり、日本国内にデータセンターを置こう、あるいは熊本に工場を作って半導体の調達力を強化しよう、といった動きが活発化しています。
“そうした波に乗れる会社は”ということで投資しているのが関電工です。企業が工場や施設を作るにあたっては、電気工事、空調工事をしなければならないのですが、そこのエンジニアが、今いちばん不足しているんです。需給が逼迫しているので、受注単価も上昇します。経済安全保障というカタリストに、インフレという要因も重なって、最も恩恵を受けるのが関電工のようなインフラを提供する会社だと考えています。