今回焦点を当てる医療機器業界は、一般的に「不況の影響を受けにくい」と言われている。確かに他の業界と比較すれば、その影響は大きくない。

 しかしながら、経済不況が今後長期化すれば、医療・社会保障費の財源不足、患者の受診抑制などが起きる可能性は否めない。

 一方で、他業種と比較して相対的に不況の影響が低いことから、これまで他事業に対して行なわれていた投資資金が医療事業に向き、活性化する可能性もある。

 リーマンショックを発端とした経済不況に伴い、国内医療機器メーカーをとりまく環境は、どのように変化しているのだろうか?

 業界の将来シナリオに大きな影響を及ぼす不確定要素として定義した「公的医療保険制度」「患者ニーズ」「先端医療技術」の動向を整理した上で、今回の経済不況を踏まえた業界シナリオを予測し、「戦略のパラドックス」に陥らないための対応策を検討してみよう。

 結論から言えば、医療の効率化に貢献することが、不確実性に対応するための中軸戦略になる。医療業界のプレーヤーは、事業計画の策定にあたってこのことをよくよく意識すべきだ。

最大の環境変化要因となる
「公的医療保険制度」の動向

 まず、医療業界に不確実性をもたらしかねない環境変化のポイントを詳らかにしてみよう。

 第一に、公的医療保険制度の維持・改革気運が世界的に高まっていることが挙げられる。

 この度政権与党となった民主党では、自公政権が進めてきた社会保障費の削減を止め、医療費の対GDP比率を引き上げるとともに、後期高齢者医療制度の廃止と医療保険の一元化による「国民皆保険制度の維持発展」を掲げている。

 昨今の経済不況に伴う将来不安の解消に向けて、年金問題の解決と共に、医療提供体制の充実を図るというものである。