「涙にやたらと縁のある人生」
覚悟を促すかのようなタイトルバックで始まった第38回

 一方、1939年、日本の男性はお国のために戦争をしていた。

『あんぱん』第38回は、タイトルバックからはじまった。

「涙にやたらと縁のある人生」に翻弄されつつなんとか生きていこうという主題歌「賜物」。今日はとくに、涙の回であると視聴者に覚悟を促すかのように響いたように、筆者には思えた。

 タイトルバック明けには、帰宅途中ののぶ(今田美桜)のところに、兵隊ごっこの好きな子ども3人がやってきて、また兵隊さんのマネをする。彼らの再現性がやたらと高く、兵隊に心酔しているのがわかる。

 家に着くと、火が消えたようで、家族全員肩を落としている。

「豪ちゃんが戦死したがよ」と羽多子(江口のりこ)が言うと、堰を切ったようにメイコ(原菜乃華)が泣きだす。このタイミングがうまい。第37回の表情といい、原菜乃華がいい働きをしている。

 壮行会でも豪を積極的に送り出そうとしていた、団子屋の桂(小倉蒼蛙)はお国のために立派に闘ったのだから本望だろうと言い、のぶにも同意を求める。なぜなら彼女は「愛国のかがみ」だから。

 のぶは、ちょっと動揺しながら「豪ちゃんはお国のために立派にご奉公したがやです」と言う。でも、それでいいのかという気持ちがのぶにはあるように見える。このへん、今田美桜の演技のしどころであろう。

 第37回で慟哭を見せた釜次(吉田鋼太郎)も、豪の死の哀しみを押し殺し、彼の名誉を讃えようとする。以前、吉田鋼太郎に取材したとき、こんなふうに彼は答えていた。

――戦争の時代になると、どんどん周りの若者が死んでいって、お年寄りが生き残る。釜次としては何を感じながら生きていると思って演じていますか。

「戦争という状況下、どんなに辛くても、歯を食いしばって耐えなければいけない。そういう時代なんですよね。だから釜次も我慢しています」

 たぶん、ここですでに釜次は世の中の空気に抗わないように我慢しているのだろう。みんな苦しい。いいとか悪いとか抜きで、家族同様に暮らしてきた人が不意に亡くなったら悲しいに決まっていて。ただただそれを悲しめず感情を押し殺さないといけないのは不自然である。そんな状況に人間が追い込まれることがあるなんて。