何事によらず、権威になると窮屈です。

 失敗は許されず、試行錯誤もままならないし、破目も外せません。誰も挑んだことのない領域への果敢な挑戦も難しくなります。大胆で無謀なことは、できなくなります。勝算があって結果が見えている事にしか手が出せなくなります。

 所詮、未知の真新しい事に挑むことができるのは、権威から最も遠いところにいる無名の若者の特権だ。と、世の中の相場は決まっているかのようです。

 しかし、時には、権威への道に背を向け自由を選ぶ人もいます。また、功成り名を遂げ老境に達し権威と崇められるようになってからも、常識に挑戦し、新しい扉を開く人物もいます。

 と、いうわけで、今週の音盤は、エリック・サティ「ジムノペディ」(写真)です。

独特の浮遊感

 エリック・サティという作曲家は、異色の作曲家といわれます。これは比較的穏当な描写ですが、なかには、“異端児”とか“変人”と称される場合もあります。こういったレッテルが貼られる最大の所以は、サティが常に己の心の命じるところに正直に生きところにありました。自分らしく音楽に向き合うことが常識への挑戦となったのです。サティは、名誉や権威を(過度に)求めることなく、真摯に理想の音楽を追求しました。その結果、現代の音楽につながる、新しい扉が開きました。サティの功績には偉大なるものがあります。

 で、そのサティが書いた数ある作品の中で最も有名で、かつサティの目指した音楽の原型が明確に刻まれているのが、今週の音盤「ジムノペディ」です。