「プロダクトアウト」「マーケットイン」ではない
新たな手法とは?

 深化から新化に壁抜けするためには、未来志向で顧客を定義し直す必要がある。既顧客ではなく「未顧客」、既体験ではなく「未体験」を深く掘り下げなければ、非連続な価値は創造できない。この市場の「ずらし」が、新化へとつながっていく。それを「マーケットアウト」と呼ぶ。発案者はミスミの創業者である田口弘氏。ミスミは、顧客の視点から商品を開発・調達する「購買代理店型商社」という新しい業態を確立した。

 マーケットアウトとプロダクトアウトは紙一重である。自社の強みに徹底的にこだわるところは共通している。違いは、それが未来の市場づくりにつながるかどうかである。「マーケットアウト」は、シュンペーター、そしてピーター・ドラッカーが、イノベーションの定義としている「市場創造」そのものなのである。

 自社の強みを深掘りする際にも、既存の事業や資産、スキルなどを前提に、それをどんどん奥深く掘り下げようとする。しかし、横に広くつながる鉱脈や水脈にぶち当たらない限り、非連続な「新化」は期待できない。

 垂直思考(「両利きの経営」がいうところの「深化」)に陥ってしまえば、新しい未来は拓けない。かといって水平思考(「両利きの経営」がいうところの「探索」)のような深みのない表面的な活動を続けても、本質的かつ持続的な未来の鉱脈には到底たどり着かない。垂直でもなく水平でもなく、言わば「斜め」に掘り下げていく。この「ずらし」こそが、深化の先に新化を掘り当てる秘訣なのである。

 そのためには、自社の強みそのものを「再編集」してみる必要がある。たとえばトヨタであれば、それは「ものづくり力」ではなく、「ものづくらせ力」である。TPS(トヨタ生産方式)に象徴される進化する仕組みや、トヨタ流のすり合わせ型ものづくりを実現するエコシステム構築力こそが、トヨタの強みの本質である。

 そうだとすれば、トヨタはクルマづくりを超えて、移動システム、さらには社会システムや生活システムづくりに「新化」し続けることができるはずだ。