ひたすら「掘りまくる」!
キーエンスの「成功の方程式」とは

 深化から新化を紡ぎ出す深耕型の旗手が、過去に本連載で取り上げたキーエンスである。センサー領域を一意専心に深耕し続けて急成長してきた。キーエンスの成功の方程式は、極めてシンプルだ。

 まず、顧客の困りごとを顧客に先回りして発見する。そのためには、トヨタなど進化し続けるごく一部の企業を除き、既顧客には目もくれない。仮説を先に立て、そのような課題を抱えている可能性のある未顧客を、片っ端から訪問しまくる。営業担当者1人につき1日最低5件、できるだけ10件を目指すというモーレツ(日本では死語になりつつある言葉)ぶりだ。

 訪問の前には、上司が「ロープレ(ロールプレイングの略)」として、営業トークを徹底的に叩き込む。決め球は、そのセンサーを導入することで顧客にとってどれだけの経済価値が生まれるかを提示してしまうことだ。桁違いのROI(投資利益率)が期待できる提案をして、即「特注」に持ち込む。まさに未顧客の未体験ゾーンを、徹底的に掘りまくるのである。

 商品開発もキーエンスならではだ。世界中のセンサー技術の中から顧客のニーズに合った最適な技術を調達し、それを自社の試作ラインで製品に組み立てて顧客に即納する。量産段階では協力会社ネットワークを通じて、最も安いところに生産を委託する。自社独自の技術や生産には、まったくこだわらない。それが同社の強みではないからだ。

 では、同社の強みは何か。顧客のニーズを先回りしてとらえ、その解決に最適な技術を外から調達し、即納する力である。これこそが、自前主義にこだわる伝統的なメーカーとの本質的な違いだ。

 未来の顧客や未来の課題は無尽蔵にあり、未来の技術は世界中で開発競争が進められている。このように顧客と技術を未来に向けて「つなぐ」ことで、キーエンスはまったくぶれることなく、深化の先に新化の可能性を拓いていっているのだ。