「フェアネス」がもたらす価格の粘着性
まず、第1期の値上げ抑制だが、一つの解釈は「フェアネス」にこだわったというものだ。「フェアネス」は米経済学者のアーサー・オークンが提唱したもので、売り手と買い手の間には価格設定に関する暗黙の合意事項があると考える(詳しくは拙著『物価を考える』第3章を参照)。
例えば、大雪やハリケーンなどの自然災害の際にシャベルや懐中電灯などの必需品の価格を店舗が引き上げたとすれば、買い手はそれをアンフェアと受け止める。なぜかと言えば、需要が増えたといっても、その原因は自然災害であり、店舗の営業努力の結果として得られた需要増ではないからだ。買い手がアンフェアと考え、それが二者間の合意となっている以上、売り手はシャベルなどの値上げに踏み切れない。
24年夏の需要増には、同時期に発生した宮崎県・日向灘の地震が原因という面がある。多くの店舗が需要増の背景をそう理解し、その状況で値上げに向かうと顧客から「アンフェア」と謗(そし)られるのではないか、店舗の評判を落とし後々のビジネスに悪影響があるのではないか、と考えた可能性がある。
一方、第2期は、地震から時間がたっていたこともあって、需要増に呼応した値上げを「アンフェア」とする視点が、顧客にも店舗にも、希薄だったのではないか。その結果、価格は需要増に呼応して迅速に引き上げられ、その価格上昇が需要を冷やすことで、在庫切れが回避されたと解釈できる。