「沖縄で感染が突出」「感染者はすでに5万人」――。“第二波”の到来が指摘される新型インフルエンザを巡っては、様々な報道が独り歩きしている。厚労省医系技官の木村盛世・医師は、いずれの推計も根拠は薄弱であり、そもそも今の政府のやり方では感染実態の把握は不可能と警鐘を鳴らす。
木村盛世(きむらもりよ) 厚生労働省医系技官。筑波大学医学群卒、ジョンズホプキンズ大学公衆衛生学修士。専門は感染症疫学。 |
―新型インフルエンザの感染が拡大している。7月24日現在の患者数は4986人、舛添・厚生労働相は「感染者は5万人に上ると推計される」と発言した。
5万人という推計根拠が、まったくわからない。というよりも、推計するための基礎データを厚労省は持っていないはずだ。
―どういうことか。
政府の今の調査方法は、クラスター・サーベイランスだ。患者が発生した小集団を集中的に調べるやり方だ。これは感染症の発生初期段階に感染拡大の芽を摘むための方法であり、全国に広がる感染者を推計する基礎データを得る調査ではない。基礎データ獲得には、全国をなるべく細かいブロックに分け、精緻なサンプリング調査を行う必要がある。加えて厚労省のサンプリングの仕方はころころと変わるので現場がついてゆけない。
現状は政府は地方自治体へ実態把握を呼びかけているに過ぎない状況だ。結局は、各地の保健所がどれだけ熱心に調査するかにかかってしまっている。だが、現場には十分な検査人員もいない。必要な基礎データなど、取れるはずがない。
―沖縄の感染者数が、全国の中で突出しているのはなぜか。
沖縄で突出して蔓延している、というのは本当だろうか。集団発生をきっかけに、熱心に検査したからではないのか。あるいは近隣の亜熱帯地域では雨季の現在インフルエンザが流行りやすいという情報もある。今申し上げたように、全国各地の実態が分からないのに比べられないだろう。常識で考えても、沖縄県民が新型インフルエンザに感染しやすい集団だということは、あまり考えられない。
―ついに、初めて国内で死者が出た。
それも、初めてかどうかわからない。例えば、季節性のインフルエンザでも年間1万人ほどの死者が出るが、そこに新型インフルエンザ患者が混じっていたかもしれない。症状は同じだから、容易に区別はつかない。また、老人保健施設で亡くなる方たちすべてに新型インフルエンザの検査をしているわけでもない。
―新型インフルエンザはなぜ真夏でも感染が拡大しているのか。
実は、インフルエンザが夏に感染力が低下し、冬には強まるという学術的エビデンスはない。冬季の人々の行動特性が感染拡大に影響してはいる、ということはあるかもしれない。だが、ウイルスは湿度及び温度が高い状態には弱い、などと通常いわれていることが、証明されているわけではないのだ。