IT化、グローバル化で取り残された
プアホワイトの怨嗟に基づき制度を破壊

 トランプ政権下のアメリカで進行している現象は、「プアホワイト」と呼ばれる貧しい白人労働者が、社会の構造を覆そうとしているものだと捉えることができる。その根源にあるのは、フランス革命当時の平民階級が持っていたのと同じく、現存の社会に対する不満だ。

 だから、これは「制度を建設する革命」ではなく、「制度を破壊する革命」といってよい。

「プアホワイト」は、1990年代以降のアメリカ経済のIT化やサービス化、グローバル化による新しい発展の中で、仕事と尊厳を失った。

 工場は海外に移転し、ラストベルトの工場は閉鎖された。目覚ましい発展を始めたのは、シリコンバレーのIT産業や、ラストベルトの製薬産業であり、彼らが働いていた鉄鋼産業や自動車産業ではなかった。こうして、彼らはエリート階層に裏切られたと感じてきた。

 この怨嗟の感情は、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」とか、MAGAというスローガンに収斂する。ただし、その本質はナショナリズムではなく、エリート体制への「報復」に他ならない。

 そうであれば、エリート階級が攻撃の対象となるのは、当然のことだ。

「関税をかければ、ファブレス製造業には不利に働く」と指摘したところで、「そうした先端産業で働くエリートたちを破滅させることこそ、われわれの目的だ」との反応が返ってくるだろう。

 トランプ革命の本質は、フランス革命と同じものであり、「反アメリカ革命」なのだ。

大統領に過大な権限、「三権分立」を破壊
70年代の日米経済摩擦時代の源流

 アーレントが指摘するように、「行政・立法・司法が相互に制限し合うことによって、権力の集中を防ぐ」という「三権分立」は、アメリカ革命を制度面で支える核心的な装置だった。

 しかし、強固に見えたこの仕組みが、70年代から徐々に変貌してきた。

 特に重要な変化は、70年代からの通商政策の変化だ。74年通商法や88年包括通商競争力法などの導入によって、それまでは議会の権限だった関税率の決定権が大統領に委任されるようになった。

 これらの措置は、70~80年代に日米経済摩擦の中で導入された。当時のアメリカは、日本やドイツからの輸入急増の下で経済が疲弊状態に陥っていた。それに対処するために、これらの措置が導入されたのだ。

 いまから見れば、こうした措置は一時的なものとして廃棄されるべきだった。しかし、それらは放置された。そして、これらの特例措置が今回のトランプ政権が仕掛ける関税戦争を可能とする基本的な手段になっている。

 これは、立法権限の行政への過剰な移譲という制度的劣化の典型であり、アーレント的視点からすれば「革命を支えた制度」の破壊だ。

 これが三権分立のバランスを著しく壊すことになろうとは、その当時には誰も考えなかったのだが、結果的に見れば、そうなっている。つまり制度面からいうと、「反アメリカ革命」はいまに始まったものではない。