重光宏之・ロッテホールディングス元副会長Photo by Masato Kato

7月4日、ロッテホールディングス(HD)元副会長の重光宏之氏が株主代表訴訟を提起した。原告の宏之氏は創業者・武雄氏の長男、被告の昭夫氏は次男に当たる。日韓にまたがる巨大グループを背負った兄弟はなぜ訴訟に至ったのか。宏之氏が自身が解任された裏側や二人の幼少期、戸籍問題を語った。(聞き手/ダイヤモンド編集部 下本菜実)

――株主としてロッテHDの経営をどう見ていますか。

 以前から何度か、経営状況が悪くなっているのではないかとロッテHD側に伝えていますが、あまり聞く耳を持たれませんでした。2025年3月期の決算では、グループ全体で税引き前3300億円、親会社に帰属する純損失で1600億円という赤字を出している。経営として非常によろしくない状況ですし、もっと問題なのは解決策を示せていないことです。

 韓国事業の中で最も大きい小売り分野でいえば、競合企業のオンラインECサイト「クーパン」は圧倒的な成長を見せています。ロッテはECの分野では競争しないと、対抗する動きを取りませんでした。その結果、売上高で追い越されてしまいました。

 免税品についても同様です。以前は世界一を目指すと言っていましたが、中国の国策企業に抜かれてしまった。実はロッテの免税売り上げの少なくない部分が中国の輸入業者を相手にしたものでした。

 こうした中国の輸入業者は、仕入れ量を増やす代わりに値引きを要求します。そうなると、売上金額は大きくても、ロッテ側のもうけは少なくなる。衣で大きく見せているけれど、身は小さい“天ぷら”のような状態でした。

 さらに、中国政府は海外の免税店で仕入れたブランド品などが国内に持ち込まれるならばと、国内旅行での免税購入金額の上限を引き上げるなどの対策を打ってきた。結果、ロッテ免税店の売り上げも先細ってしまいました。

――石油化学事業でも赤字が続いています。

 石油化学事業でこれまで核となっていたのは、エチレンやプロピレン事業です。石油から製造されるエチレンは“化学品の米”とも言われています。これまで、主に中国企業に販売していましたが、彼らもエチレンの国産化を進めていて、今は輸入国から輸出国になりました。

 産油国でもエチレンの製造は盛んです。サウジアラビアで原油から直接、エチレンを作れば、ロッテケミカルで製造する3分の1のコストで製造できる。こうなると、ロッテHDの勝ち目がありません。

 これまでは規模の拡大で製造コストを下げて、利益を出してきましたが、それができなくなってしまった。中国が国産化を進めてくるのは想定できたこと。規模の拡大ではない方法を探るべきでした。現状の石油化学分野の赤字は、やはり経営の失敗でしょう。先を見ていなかったのだと思います。

――国内事業の上場については、どう見ていますか。

 日本の製菓事業はそこそこ利益が出ていますし、基礎はしっかりしている。以前は(チョコパイなどのお菓子は)大袋タイプがよく売れていましたが、少子化だったり、まとめ買いをされなくなったりで、高付加価値化された個食タイプがよく売れています。

 現状は頓挫していますが、現経営陣はロッテHDの子会社で菓子やアイスなどを製造する事業会社ロッテの上場を目指してきました。ですが、本来はロッテHDという支配的な株主がいる中での子会社上場ではなく、全体の元じめとして親会社が上場すべき。子会社がそれぞれ上場するのではなく、グループとして価値をあげていくのが望ましい。後からHDが上場すれば、親子上場という形になってしまいます。

――ロッテHD会長の重光昭夫氏とHD社長の玉塚元一氏ほか5人の取締役に対し、約144億円の賠償を求めて、株主代表訴訟を提起しました。勝算はありますか。

 問題なのは、犯罪を起こした人間がそのまま役員に就いているどころか、グループの代表であることです。昭夫は韓国のグループからだけで、年間で約22億円の報酬を得ている。

 韓国の財閥では、経営状況が良くないときには、経営陣は自らの配当金を減らすケースが多い。ロッテにおいても経営状況が良ければ、取締役の報酬を増やすことは問題ありません。しかし、現会長は業績が悪化しているにもかかわらず、22年に日本ロッテの取締役報酬の上限を7億円から12億円に増額しました。その必要はあったのでしょうか。ある種、経営の私物化といえるでしょう。

 取締役に対しては、善管注意義務に違反しないように、きちんと会社の経営を見てもらいたいと考えています。

――裁判が進んでいけば、現会長で弟の昭夫氏と法廷で原告と被告という形で対面します。近年、兄弟で顔を合わせることはありましたか。

 全然ないですね。2020年の父の葬儀が最後です。父や親族の法事のときに連絡はしていますが来ていません。

――創業者の武雄氏は事業継承を見据えて、長男である宏之氏に日本事業を、次男である昭夫氏に韓国事業を任せました。なぜ、このように振り分けたのですか。

2015年1月、ロッテHDの取締役会は当時、副会長だった宏之氏の解任を決議した。その直前のクリスマス、HD社長だった佃孝之氏はある書類を携えて創業家を訪れていたという。次ページでは、宏之氏が解任劇の裏側のほか、クジャクを追いかけた幼少期、戸籍問題を語った。