さすがに目の前の出来事に有志の登場を待つわけにもいかない。すぐに駆けつけて、「大丈夫?」と男の子に声をかけ、足元に広がった嘔吐物の処理に取りかかった。
ペーパータオルをかけ、嘔吐処理をしていると、横にいた母親らしき女性が、
「吐いてスッキリしたでしょ。早く次のところに行くよ」
と言うと、あわててその子の手を引いて去っていった。私は茫然と親子の後ろ姿を見送った。
オンステージでの作業が終わると、バックステージに戻って後処理をしなければならない。
使用したトイブルームとダストパンを水洗いした後、さらに殺菌処理が必要になる。ダストパンのペーパータオルをゴミ袋に入れ、口を縛って赤のテープを巻く。それを近くのコンテナに持って行き、所定の場所に置く。さらに嘔吐処理の発生時間や場所などを所定の記録用紙に記入する。この作業もなかなか手間がかかる。
水洗い中、ダストパンの隅にひっかかりなかなか流れていかない吐瀉(としゃ)物の断片を見ているうち、さきほどの母親の顔が頭に思い浮かび、腹が立ってきた。
気まずかったのか、本当に急いでいたのかはわからない。それにしても目の前で処理をしている人に何も言わずに立ち去るなんて。ムカムカしながら、作業を続ける。
