米国の金融政策動向、中東の地政学リスク、中国の景気動向…。強弱の材料が入り交じり、原油価格は一進一退の動きを続けている。今後も、トランプ政権の政策の不透明さもあり、方向感の出にくい相場展開となりそうだ。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
24年11月後半は
地政学リスクに翻弄される
原油相場は、2024年11月中旬に米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で1バレル当たり60ドル台半ばまで下落したが、25年年初の1月6日には70ドル台半ばまで持ち直した。昨秋からのレンジ内の動きにとどまっているが、やや上値を試す動きが出始めているようだ。
24年11月半ばからの原油相場の変動材料を振り返ると、15日は下落幅がやや大きくなった。10月の中国の鉱工業生産や原油処理量が低調だったことで、世界の石油需要の先行きへの懸念が強まった。前日にFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長がややタカ派的な発言をしたことも、原油価格の下押し要因となった。
18日は、一時WTIで66.61ドル、欧州北海産のブレントで70.70ドルと安値をつけた後、WTI、ブレントともに3.2%高と上げ幅が大きくなった。
前日にバイデン米政権が、ウクライナによる長距離ミサイルでのロシア本土攻撃を容認したと報道され、地政学懸念が高まったことや、ノルウェーのヨハン・スベルドラップ油田(日量75.7万バレルの生産能力)が停電のため生産停止に陥ったことが買い材料になった。
19日は小幅ながら続伸した。ウクライナ軍がロシア西部の軍事施設に向けて米国製長距離地対地ミサイル「ATACMS」を撃ち込んだとロシア国防省が発表し、今後、石油施設が標的になる可能性が意識された。
プーチン露大統領は、核兵器の使用条件を示した核ドクトリン(核抑止力の国家政策方針)を改定し、ロシアによる核兵器使用のハードルが下がるとみられた。一方、上記ノルウェーの油田の生産が再開されたことは売り材料だった。
21日には、プーチン氏が、ウクライナの軍事施設に対して極超音速中距離弾道ミサイル「オレシニク」を発射したと発表し、原油は上昇した。
25日は、米ニュースサイト「アクシオス」がイスラエルとヒズボラとの戦闘を巡って、イスラエルとレバノンの両政府が停戦案に合意したと報道し、中東の地政学リスク懸念が後退したことで、WTIは3.2%安、ブレントは2.9%安になった。
次ページでは、年末年始の動きを振り返りながら、先行きを検証する。