創業家を支える次の“番頭”は誰かPhoto:Bloomberg/gettyimages

サントリーHD会長の新浪剛史氏が、違法薬物疑惑をきっかけに辞任した。2025年4月に発足した新浪会長・鳥井社長体制の突然の幕引きに社内は大慌てかと思いきや、すでに、鳥井信宏社長を中心とした新体制となっているため、社内は落ち着きを取り戻している。それどころか、鳥井体制の“番頭”ポストを巡り、有力候補者の名前すら挙がり始めている状況だ。では、鳥井体制でプロパーのトップである番頭の座を射止めるのは誰か。候補3人の実名を公開する。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)

誰が創業家を支えるのか
“番頭”ポジションは空白

 歯に衣着せぬ物言いで、常にスポットライトを浴び続けていた経済界の大物の幕引きとしては、あまりにもお粗末だった。

 9月2日、サントリーホールディングス(HD)は緊急記者会見行い、新浪剛史会長の「一身上の理由」による辞任と、同氏が8月22日から違法性が疑われるサプリメントを巡り、警察の捜査を受けていることを発表した。実際、新浪氏は麻薬取締法違反の疑いで、福岡県警察本部による家宅捜査を受けていた。

 サントリーHDの説明によると、新浪氏から最初に報告を受けたのは8月21日深夜。翌22日午前に福岡県警による家宅捜索が行われたが、違法薬物は見つからず、尿検査でも陰性だった。

 26日に取締役会の場で新浪氏から説明が行われ、28日には新浪氏を除く取締役と監査役で処遇に関する会議が行われた。そこでは即時解任や警察の捜査を見守るべきなどのさまざまな意見が上がったが、最終的には全員一致で「新浪氏に辞任を求める」という結論に達した。その後、鳥井信宏社長と新浪氏が2人で会談。9月1日付で新浪氏が辞任届を提出し、翌日の辞任発表となった。

 新浪氏は適法であるとの認識の下、国内では違法の疑いのあるサプリメントを米国の知人から購入していた。しかし、現時点では国内での所持や使用が確認されておらず、新浪氏は自身の潔白を主張している。

 会見が行われた9月2日、サントリー社内では異例の措置が取られた。社員によると、午前中から会見が行われるエリアへの入場規制が張られた。過去にない異例の事態に、HD上場や創業家の不祥事など、“まさかの事態”がうわさされたという。

 しかし、新浪氏の違法薬物疑惑と辞任が発表されると、社内はすぐに冷静さを取り戻した。なぜなら、社内の体制はすでに鳥井社長を中心としたものに変わっており、実務に大きな影響があるとはいえないからだ。

 そこでにわかに注目されるようになったのが、鳥井信宏体制で創業家を支える“番頭”人事の行方である。

 サントリーの歴史をひもとくと、躍進の裏には必ず、創業家の決断とそれを支える“番頭”の尽力があった。佐治信忠会長の任期中、冥参謀として陰に支え、ビール事業と海外進出の基礎をつくったのが青山繁弘氏である。

 青山氏は酒類カンパニーの社長として、プレミアムモルツの市場投入を任された。青山氏は佐治氏の意向の下、価格やキレ味の競争となっていたビール市場に、プレミアム感で勝負を懸ける。結果、プレミアムモルツは大ヒットし、サントリーのビール事業は黒字に転じた。

 約1兆6000億円の巨額ディールとなった米ビーム買収でも、実務に当たったのは青山氏だった。青山氏は酒類カンパニーのトップを経て、HD副会長に就任。HDの最高顧問を経て特別顧問となり、19年に退任した。

 今回、鳥井社長と共に会見を行ったのは、取締役副社長の山田賢治氏だった。山田氏はサントリービールの取締役社長などを歴任し、24年1月にHDの副社長に就任。会見では、感情をあらわにすることもあった鳥井氏とは対照的に、落ち着いた対応を貫いた。

 その山田氏は25年9月に64歳になるため、信宏氏と伴走できる時間は長くない。また、今回の会見はリスクマネジメントの担当として同席したにすぎず、鳥井体制の“番頭”はいまだ空席といえる。

 では、新浪氏との“二人三脚”が不可能となった今、次の番頭は誰が担うのか。次ページで、サントリー社内でささやかれている、有力候補3人の実名を公開する。