少数株主の創業家の提案が株主の総意?
ガバナンスが利いていない無秩序状態

 創業家が3割を超える株式を保有しているのであれば話は別ですが、8%の少数株主に過ぎない創業家の提案を、株主の総意であるかのように決定事項としてしまうのは、ぼくの目には株式会社としてのガバナンスが利いていない、無秩序な状態にしか見えません。クシュタールは呆れ果てたのか、「建設的な協議の欠如」を理由に25年7月、買収提案を撤回しました。

 セブン&アイでは祖業であるイトーヨーカ堂の売却も取り沙汰されてきましたが、25年3月になってようやく、米国ファンドのベインキャピタルに8147億円で売却する契約を結んだと公表しました。まともな経営者ならとっくの昔にイトーヨーカ堂は売却していたでしょう。

 かつて一世を風靡した総合スーパーは、ユニクロやニトリなどの登場で20年以上も前から陰りを見せていました。巨艦ダイエーの沈没はその象徴です。さらに、大手ディスカウンターに追い打ちをかけられ、1カ所で生活に必要なモノは何でも揃うというビジネスモデルは崩壊してしまっています。

 成功しているのは、総合スーパーとショッピングモールを併設し、ユニクロやニトリを取り込んだイオンモールだけです。スーパーのままでイトーヨーカ堂を儲かるようにする術(すべ)は誰も持っていません。

 株主の利益を考えて、セブン&アイの企業価値を上げるには、イトーヨーカ堂を切り離すという選択しかないことは経営のプロなら誰にでも分かっていたことです。長年にわたりそれができなかったのも、創業家が祖業に拘って反対したからでしょう。少数株主の意向に振り回されて適切な経営判断ができないということは、取締役会が機能していないということに他なりません。海外ではあり得ないことです。

0.14%の少数株主がオーナー?
世界の常識では異常なトヨタ

 さらに異形なのがトヨタです。約0.14%(24年3月期末現在)の持ち株比率しか持たない豊田章男会長がまるでオーナーであるかのように振る舞っています。

 株式の分布は金融機関が約40%、外国法人約25%、その他の法人約25%という構成で、その他の法人の大半はトヨタのグループ企業です。創業家支配に口を挟まない金融機関とグループ会社が安定株主であることを力の源泉として、世界企業のトップが世襲の章男氏で、創業家が事実上君臨し続けてきたわけですが、世界の常識からすると異常としか言いようがありません。

 24年6月の株主総会で取締役に再任された章男氏の賛成率が急落し約72%だったことが話題となりましたが、外国の株主の反対率が高かったことは容易に想像できます。

 その背景には、完全子会社のダイハツ工業(トヨタの軽自動車部門のような位置付け)や子会社の日野自動車の認証不正などの不祥事が続発し、アメリカの議決権行使助言会社の「グラス・ルイス」と「ISS」が「最終的な責任は長年のトップを務めてきた豊田会長にあると考えるべきだ」として株主たちに再任反対を推奨していたことがありました。また、社外取締役がメインバンクや監督官庁の出身で利害関係者が多く、独立性が不十分だという指摘もありました(なお、25年6月の株主総会では賛成率は97%に回復)。

 その後、創業家支配の経営姿勢を問題視するアクティビストファンドは、トヨタグループの源流企業である「豊田自動織機」に狙いを定めました。ところが25年6月、トヨタ側は、豊田自動織機のTOB(株式公開買い付け)による株式非公開化提案を表明しました。非公開化すれば、アクティビストからの経営批判に晒されることはなくなります。

非公開化する大義はあるのか
業績がよく見えるのは為替マジックのおかげ

 はたして非公開化する大義はあるのか──章男氏が個人的に10億円を拠出するなど非公開のスキームが極めて複雑であることも相まって不透明なことは否めません。買収に当たりメガバンクから3兆円程度を借り入れますが、豊田自動織機の負債となります。ステークホルダーである従業員は「蚊帳の外」です。

 トヨタの24年3月期の営業利益率は11.9%ですから、数字的には悪くはありません。しかし、業績がよく見えるのは為替のマジックのおかげです。経営者の実力ではありません。幸運に恵まれただけです。円安のおかげで円建ての業績がアップしているように見えているだけで、実際はたいして儲かっていません。

 海外の企業では、為替の変動が有利に働いて数字的に業績が上がったように見えたとしても、実質的に業績が上がっていなければ、そんなことは株主にすぐに見破られてしまいます。

 そのためネスレ本社では、業績を発表する際には、為替変動の影響を抜きにした数字も公表していました。具体的には、前年と業績を比較する際には、前年と為替レートを同一にした数字を公表していました。

Key Visual by Kaoru Kurata