前回、日銀引き受けによる国債発行で財政拡大を行なうという経済政策について述べた。その原稿を書いた直後に、日銀はCP(コマーシャルペーパー)の直接購入に踏み切った。企業の資金調達が困難になっていることに対処するものだ。白川方明総裁は、「企業の信用リスクを負担する世界に踏み出すのは中央銀行としては異例中の異例」と説明している。

 これまでも日銀によるCPの購入は行なわれていたが、銀行を経由してのものであり、しかも売り戻し条件が付けられていた。今回の措置は、直接であり、しかも買い切りである。これは、簡単に言えば、日銀が通貨を増発し、それを用いて直接に企業に融資することである。

 対象企業の範囲などの詳細はまだ決められていないが、これが前代未聞の措置であることは間違いない。最大の問題は、企業の破綻リスクを日銀が負ってしまうことである。企業が破綻すれば、資金を回収できず、日銀の資産が劣化する。そして、通貨への信頼が失われる。また、財政負担となり、国民に負担が及ぶ(1998年に山一證券に対してなされた日銀融資は回収できず、日銀納付金の減という形で国民負担となった)。したがって、これまでは禁じ手と考えられていた措置だ。日本銀行は、パンドラの箱を開けてしまったことになる。

 そして、こうした異例の策を行なっても、どれだけの効果が期待できるのかは疑問だ。企業の資金繰りの問題が解決されるとしても、それで問題そのものが解決するわけではないのである。企業にとっての問題は、製品が売れないことだからだ。その問題が解決されないかぎり、いかに資金手当てができても、何の役にも立たない。製品に対する需要がなければ話にならないのであり、それに対しては、金融的な措置は無力である。つまり、信用収縮を抑える効果はあるが、それが経済を刺激できるわけではないのである(なお、これまで日本で行なわれていた量的緩和措置も、国内経済のためというよりは、為替介入の非不胎化のためだったと考えられる)。

有効需要を
確実に増やす手段が必要

 いま日本経済が直面しつつある問題は、有効需要の急激かつ大幅な落ち込みだ。

 貿易統計の速報によると、08年11月の輸出総額は、対前年比で約1.94兆円の減少となった。今後もこれが続くとすれば、年間では23.3兆円程度の需要減少となる。これは、GDPの4.47%程度になる。

 輸出の減少は、これまでも生じていたことだ。08年の8月から10月までは、毎月、前年比で約1兆円の落ち込みが続いていた。それが11月に倍増したわけだ。内閣府が12月9日に発表した7-9月期国民所得統計2次速報によると、実質GDPは前期比0.5%減、年率換算では1.8%減となっているが、貿易統計における輸出の落ち込みを考えると、10-12月期の実質GDPは、この倍程度の落ち込みになる可能性がある。