子どもを抱っこするワーキングマザーのイメージ写真写真はイメージです(Photo:PIXTA)

働き方やキャリアの選択肢が多様化する現代において、多くの人々が自分にとっての理想の仕事や働き方を探し求めています。前回は、漠然とした不安を抱えながらも転職活動を通じて自己理解を深め、納得のいくキャリアを見つけた事例をご紹介しました。
今回の連載では、同じ30代の子育て中ながら、まったく異なる状況で転職活動をスタートした2人の事例に焦点を当てます。子育てと仕事の両立をしながら新しいことへ挑戦したいAさん、そしてキャリアの先行きに不安を感じて転職を考えたBさんが、いかにして困難を乗り越え、理想の働き方を実現したのか。キャリアアドバイザーの視点から、その軌跡を追います。(文=松原 大悟/リクルートエージェント キャリアアドバイザー)

「キャリアアップと子育てを両立したい」と転職活動をスタートしたAさん

 Aさん(30代)は、小学校低学年のお子さんを育てるシングルマザーです。これまで契約社員や派遣社員として事務職の経験を積んできましたが、「将来を考え、専門スキルを身に付けてキャリアアップを目指したい」「収入を上げて、子どもを大学まで進学させたい」という思いから、正社員としての転職を決意しました。

 しかし、「子どものために午後5時30分には帰りたい」という退勤時間の希望が、転職活動のハードルとなっていました。そこで、キャリアアドバイザーは、Aさんの強みを最大限にアピールできるよう、これまでの経験と身に付けたスキルの「棚卸し」を一緒に行いました。

突き付けられた厳しい現実。一度転職活動と距離を置いたことも

 妥協せずに多くの会社に応募したAさんですが、書類選考や面接で不採用が続いたことで、「こんなに落ちるものなのか」と現実の厳しさを実感します。その結果、心が折れそうになったAさんは、一度は転職活動から距離を置くことに。しかし、「子どもを育てていかなければいけない」という覚悟と、周囲の前向きな言葉に励まされ、再び立ち上がることを決意します。「自分らしく頑張ろう」「今できることはやり切ろう」と気持ちを立て直し、転職活動を再開しました。

「自分の言葉で伝える」ことが採用の決め手に

 Aさんは、お子さんが寝た後に資格の勉強をするなど、高い向上心を持っていました。転職活動再開後は、さらに学びを深め、諦めずに粘り強く、キャリアアドバイザーと一緒に自己分析や企業研究、そして自己学習を重ねました。志望動機や転職理由を整理し、通勤中に小声で練習するなど、面接に向けた事前準備も徹底して行いました。

 この努力が実を結び、AさんはIT企業の営業職として採用されることになります。採用の決め手となったのは、面接でアピールした「効率的に仕事をする工夫」や「コミュニケーション力」、そして強い「向上心」でした。