重工バブルの真相#2写真提供:三菱ロジスネクスト

三菱重工業はフォークリフトの製造、販売を担う子会社、三菱ロジスネクストを日本産業パートナーズ(JIP)に売却する。幅広い事業を総花的に育てる路線から脱却する方向性が鮮明になっている。特集『重工バブルの真相』の#2では、売却の舞台裏を読み解き、三菱重工の構造改革の実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

次に売却・撤退となる事業は?
伊藤社長に問われる「取捨選択」の手腕

 三菱重工業は9月末、フォークリフトの製造を担う子会社の三菱ロジスネクストを売却すると発表した。投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)はTOB(株式公開買い付け)を通じて三菱ロジスネクスト株を取得し、三菱重工の持ち分約64%も買い取る。買付総額は約1300億円になる見込みだ。

 売却は昨年から取り沙汰されていた。注目されていたのは、幅広い製品を持つ三菱重工が今後、事業ポートフォリオをいかに再編していくかの方向性が垣間見える決断だったからだ。

 つまり、黒字であっても、稼ぎに貢献している“エース事業”とのシナジーがなければ容赦なく売りに出すことを明確化したのだ。

 三菱ロジスネクストは2025年3月期の売上高は6655億円で三菱重工の連結売上高の1割強に当たる。量産品を製造販売する事業としては最大規模だ。近年の営業利益率は2~6%程度で、稼ぎ頭のガスタービンなどを含むエナジーセグメント(同期の事業利益率11%)に比べれば見劣りするものの、黒字ではある。

 三菱重工は中期経営計画で、ガスタービン、原子力、防衛の3事業を伸長事業と位置付け、優先的に投資する方針を示している。10兆円を超える受注残のうち、7.5兆円はこれらの事業が占める。

 一方、フォークリフトは無人化・自動化に向けた技術開発に各社が取り組んでいるが、基本的な技術は成熟しており、現段階では製品を差別化する余地は少ない。世界シェアトップは豊田自動織機で、25年3月期は売上高4兆849億円と圧倒的な規模を誇る。2~4位には海外メーカーが並び、三菱ロジスネクストは5位となっている。

 フォークリフト業界では、小さな勢力が合従連衡を繰り返してガリバーにあらがってきた経緯がある。三菱ロジスネクストは実は大元は三菱グループではない。1937年設立の日本輸送機が源流だ。同社が2013年に三菱重工のフォークリフト事業を承継した上で三菱重工の連結子会社、ニチユ三菱フォークリフトになった。

 さらにニチユ三菱フォークリフトは、17年に日産自動車から分社化した日産フォークリフトと日立建機子会社のTCMが合併したユニキャリアを買収して、今の形になった。ユニキャリアも当時、株式の過半数を政府系投資ファンドの産業革新機構(INCJ)が持っていた。当時から稼ぎにくい業界だったのだ。肩を寄せ合って生き残りを図ったものの、その居場所は三菱重工の傘下ではなかった。

 組織を切り離す再編では痛みがつきものだ。京都府長岡京市に本社を構える三菱ロジスネクストには、三菱重工からの出向者も少なくない。発表によると売却後も「従業員の処遇は維持される」。だが、投資ファンドであるJIPがいつまでも三菱ロジスネクストを持ち続けるわけではないだろう。将来的に誰が経営を担うのか、現時点ではみえていない。三菱重工に残れるかどうかを気にしない出向者は少ないだろう。

 子会社売却の際に出向者の扱いがどうなるかは一人一人個別に判断される。三菱重工が「選択と集中」を前進させた裏で、当事者は落ち着かない日々を過ごしている。

 次ページでは、三菱重工の事業ポートフォリオ再編の判断軸と、構造改革を進める「攻めのフェーズ」でトップに就任した伊藤栄作社長が解決しなければならない宿題を明らかにする。エース事業がいかに他の低収益な事業を支えているかが一目瞭然の図表も公開する。