重工バブルの真相#9Photo:Nora Carol Photography/gettyimages

防衛費増額の追い風を受けて、かつてない好業績を収めている三菱重工業、川崎重工業、IHIの3重工。今は構造改革を進めるまたとない好機ともいえる。そこで注目されるのがトップ人事だ。3社では歴代、どのようなキャリアを歩んだ幹部がトップに上り詰めているのか。特集『重工バブルの真相』の#9では、関係者への取材で3社の次期社長候補の実名を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

3重工トップの王道は技術部門
防衛、航空、発電機、脱炭素部門からが有力

 重工3社では、川崎重工業の橋本康彦社長とIHIの井手博社長が2026年6月で就任から6年を迎える。三菱重工業は今年4月に伊藤栄作社長が就任したが、早くも水面下では次期社長レースが始まっている。

 トップにどんな経歴の人物が就くのかは、企業のカラーが色濃く反映している。メーカーの場合は、技術部門出身者が就くことが多いのか、それとも営業や財務の出身者が就くことが多いのかが大きな違いだ。4月には日本製鉄で初の技術系トップとして今井正社長、コマツでは異例の財務部門出身のトップとして今吉琢也社長がそれぞれ就任し、注目された。

 その点では、三菱重工、川崎重工、IHIの3重工はおおむね傾向は似ている。3社とも機械、発電機器、航空部門などの技術系出身者がトップに上り詰めることがほとんどだ。そして、社長就任前のポストは、事業部門のトップや最高技術責任者(CTO)が多い。財務や営業の出身者が社長になることは珍しい。

 川崎重工は航空宇宙部門の出身者が比較的多い。橋本社長はロボットの技術者出身で、ロボット部門から初の社長となった。

 IHIの井手社長は営業出身でかつ、同社で最も利益を出している航空・宇宙・防衛部門出身ではなく、エネルギー部門のトップから社長に昇格した近年では珍しい経歴の持ち主だ。

 三菱重工は防衛部門の売上高が国内企業で最も高いが、実は防衛部門にゆかりがあるトップは歴代でも1970年代に社長を務めた守屋学治氏だけだ。

 次ページでは各社の関係者への取材に基づき、3社の本命社長候補の実名を明らかにする。各社それぞれのトップ選定の背景事情も徹底解説する。