池谷氏プロフィール池谷裕二
いけがや・ゆうじ/1970年静岡県生まれ。薬学博士。東京大学薬学部教授。脳研究者。専門分野は大脳生理学。神経の可塑性を研究することで、脳の健康や老化について探求。2018年よりERATO脳AI融合プロジェクト代表として、AIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞他、受賞多数。2024年の『夢を叶えるために脳はある』で第二十三回小林秀雄賞を受賞するなど著書多数。近著に『生成AIと脳』など。

トラブルシューティングさえ任せられる
生成AIをどう活用するか

――池谷先生ご自身は生成AIをどのように活用されていますか。

 私はもともと、プログラミングが得意で、それゆえにそのスキルが薬学部では珍しいということで、長年重宝されてきました。学生を指導してプログラムを作ってもらうことも多く、研究における重要なアドバンテージでした。しかし、生成AIの登場で状況が一変しました。

 生成AIはプログラマーが開発したものですから、当然ながら、(むしろ文章作成よりも)プログラミングが得意です。現在では、プログラミングの知識がまったくなくても、日本語で「こういうことをやって」と指示するだけで、スマートフォンのアプリまで作れるようになりました。

 当初、私を含めた既存のプログラマーはこれには強い抵抗感がありました。「中身がどう動いているかも分からない、コードも読めないのに、プログラムを作ったりして、一体トラブルシューティングはどうするのか」と批判的でした。

 自分たちの専門領域が素人に侵されることへの不安と、これまで築いてきた専門性の価値が失われる、いわば砦が崩れることへの恐れがあったのです。

 しかし、実際に使ってみると、トラブルシューティングさえも生成AIが的確に実行してくれることが分かりました。

 プログラミングの知識が一切なくても、日本語で説明すれば、適切な解決策を示してくれるのです。「牙城」が脅かされる不快感も一転、自分の能力が飛躍的に広がったと捉えられるようになりました。

 プログラミングは専門分野が細分化していて、従来は、私自身も特定分野のプログラミングしかできなかったのです。しかし今では、様々な分野のプログラムを作ることができます。

 専門分野の壁がなくなり、私の能力の領域も大幅に拡張されたような気がします。こうした技術変化の有用性にいち早く気づけるかどうかは今後の社会でますます重要になってくると思います。