総予測2026Photo by Masato Kato

今や時価総額で武田薬品工業や第一三共をおさえて国内製薬業界断トツであり、大手総合商社に比肩する中外製薬。従業員の平均年間給与や国内販売力では大手製薬1位で、「事実上の業界王者」といえる存在だ。特集『総予測2026』の本稿では、奥田修社長CEO(最高経営責任者)に、強さの秘訣や米国の政策が製薬業界に及ぼす影響などを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

米国の医薬品政策は不確実性が高く不透明
創薬力が格段に上昇してきた中国

――2026年の業界展望をお願いします。

 業界では、さまざまなことが起きています。特に米国は医薬品の最大市場ですが、相互関税、医薬品のMFNプライス(最恵国待遇価格)などが業界にかなりの影響を与えています。ただ不確実性が高く、実際に何が起きるのかが非常に分かりにくい状況であり、注視していくことが必要です。

 同時に日本もそうですが、世界各国で薬剤費・薬価削減の圧力が高まっていますので、先を見通すことがなかなか難しい状況です。日本は久しぶりのインフレで賃金もかなり上げてきていますが、一方で医療用医薬品は薬価制度があって上がるどころか、むしろ市場の実勢価格に基づいた薬価改定が行われているので薬価は下がる一方です。

 結局、薬価については、「革新的な医薬品=イノベーション」をしっかり評価する薬価の仕組みが必要です。一方でジェネリック医薬品(後発医薬品)を中心に供給が安定的にできていない、足りないという状況があります。これも薬価に要因があるところがあって、しっかりと薬価で供給を下支えするような仕組みが、今まさに必要になってきていると思います。

 そうした中で、競争優位性を築くために、AI、生成AI、AIエージェントをどういうふうに使っていくのか、活用していくのかということが、ますます重要になってきています。

 それからもう一つ、中国の創薬力が格段に上がってきています。10~15年前はそれほどでもなかったのですが、10年前くらいからは医薬品を作れるようになりました。とはいえMe-too drugといいますか、今ある薬と似通った薬が多かった。それが最近は、Me-better drug、もうちょっといい薬。さらにBest In Class(有効性や安全性などで最も優れる)の医薬品が続々と出てきています。欧米のメガファーマを中心に、中国のバイオベンチャーから開発品を導入するという動きが強くなってきています。

――中外製薬の26年の展望を教えてください。

次ページでは、26年の業績をけん引する具体的な製品、米関税問題に関してロシュ・グループにいる強み、株式市場に評価される要因の推察、中外製薬の過半の株式を握るロシュホールディングとの今後の関係などを語っている。