辻トシ子の力の源泉は
政界の黒幕といわれた父・辻嘉六
そうですね。保守本流の流れという意味では、あそこ(経世会)まで入るんでしょうね。
――吉田派が、宏池会(池田派)と佐藤派に分裂した後の、佐藤氏側の流れ(田中角栄元首相の派閥や、その流れをくむ経世会)も。
吉田政治からたどれば、あそこ(経世会)もつながるんでしょう。
――辻氏との出会いはどんなものだったのでしょうか。
宏池会と、(辻氏が経営するコンサルティング会社)三十六(さとろう)会は同じ(日本)自転車会館にありました。宏池会の先輩方が、よく三十六会に行っていた。私も初当選した1993年以降、当選1回の頃から三十六会に顔を出していました。
毎回、会うと「どうしてる?」と聞いてくれて、「こうです」と答えると、「ああ、そうね」という感じで話を聞いてもらい、時々、昔話とか、アドバイスをしてもらう。そういったお付き合いでした。
――それから定期的にお会いされて、どんな印象の方だと思いましたか。岸田さんにとって辻氏は、大先輩とか大御所とか、そういう印象でしょうか。
やはり、それなりの人脈や存在感のある人だったんでしょう。
辻さんが(岸信介内閣において)初の副総理の女性秘書官を務められた当時などのいろいろな活躍、武勇伝が今も残っています。
私にとって辻さんは、時々お邪魔すると温かく迎え入れてくれて、楽しい話をしてくれて、シュークリームが多かったですが、必ずケーキをご馳走してくれる心温かい人物、そんなイメージです。
辻トシ子氏が代表を務めるコンサルティング会社、三十六会のパーティーでスピーチする岸田文雄氏
――辻氏はなぜ大きな影響力を持てたのでしょうか。お父さんの辻嘉六氏の力を受け継いだからともいわれています。力の源泉は何だったと思いますか。
最初は、おっしゃるように「戦後政治の黒幕」とか「フィクサー」とかいわれた、お父さまの辻嘉六さんの人脈などが大きく影響したと思います。そこから始まって、(第1次吉田茂内閣で内閣書記官長〈現在の内閣官房長官〉、衆院議長を務めた)林譲治さんや益谷さんによって(益谷の秘書になるよう求められ)政治の舞台に引っ張ってもらった。その後は、やっぱり本人の努力や才覚で高く評価されたのではないでしょうか。
激動の政治の中で存在感を示すために、電話番号を50個ぐらい暗記したとか、いろんな話を聞きましたが、努力をされた方なんだと思います。
きしだ・ふみお/1957年生まれ。93年衆議院議員初当選。以来、9期連続当選。2001年文部科学副大臣、07年内閣府特命担当相として初入閣。12年宏池会会長、外相、17年自民党政調会長、21年10月から24年10月まで首相を務める。
――辻トシ子氏とお付き合いされていて、「この人は歴史のことをよく分かっている」などと感心したことはありましたか。
もともと頭の切れる方だったと思いますが、晩年に至るまで大変な記憶力を持っておられた。そして物事についてしっかりとした思い、考えを持っておられた方でした。やはり長年の自信ですとか人脈、こういったものが背景にあるからこそ言える言葉ではないかな、と感じながら話を聞いていました。
――例えば、辻氏の口から「吉田茂さんはあのときは……」とか、そういった話が出ることはありましたか。
そうですね。吉田さんまではあんまり出てこなかったかもしれませんが、池田総理以降のビッグネームは、たびたび出てきたような気がします。
――池田氏以降の宏池会出身のトップというと大平さんなどでしょうか。
そういった名前ももちろん出てきましたし、何といっても、よく話が出たのは宮澤総理でありました。
――宮澤氏と辻氏は1歳違いだそうです。辻氏と宮澤氏は、どういうお付き合いだとみていましたか。
ある意味では、同志みたいなものではないでしょうか。辻さんと同様に、宮澤総理も戦後、若い頃から大きな政治の動きの中で活躍された方ですから、当然いろんな接触があったわけです。共に汗をかいたという意味では同志的な気持ちが強かったんじゃないかと思います。
――2007年に開かれた辻氏の米寿を祝うパーティーで、宮澤氏が寝間着の上に背広を羽織ってあいさつをしたというエピソードもあります
そうですね。それだけ強い、同志的なつながりを感じておられたのだと思います。
――辻氏は、加藤紘一氏にも思い入れがあり、支援していました。加藤氏との関係は、どうご覧になっていましたか。
昭和の女帝
小説・フィクサーたちの群像
千本木啓文著
<内容紹介>
自民党の“裏面史”を初めて明かす!歴代政権の裏で絶大な影響力を誇った女性フィクサー。ホステスから政治家秘書に転じ、米CIAと通じて財務省や経産省を操った。日本自由党(自民党の前身)の結党資金を提供した「政界の黒幕」の娘を名乗ったが、その出自には秘密があった。政敵・庶民宰相との壮絶な権力闘争の行方は?













