総予測2026Photo by Yoshihisa Wada

日本取引所グループ(JPX)の山道裕己CEO(最高経営責任者)は2024年の本誌インタビューで、コーポレートガバナンス改革の進捗を「登山に例えれば、1合目か1.5合目」と評した。25年、日経平均株価が一時5万円を超えて高値を更新するなど市場は活況を呈する一方、オルツやニデックといった上場企業の不正も相次いだ。ガバナンス改革はどこまで進んだのか。特集『総予測2026』の本稿で、山道CEOに課題と26年の展望を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

「ゴールだ」と思った瞬間に堕落
株高で投資家の目線も高まる

――2024年のインタビューでコーポレートガバナンス改革の進捗は「1合目か1.5合目」と話していました(『日本取引所グループCEOが断言「改革はまだ始まったばかりだ」!上場企業の“量”より“質”重視へ』参照)が、あれから1年たち、頂上に近づいた手応えはありますか。

 進捗しているのは事実です。しかし、このコーポレートガバナンス改革は「ゴールだ」と思った瞬間から堕落が始まる。だから常に上を目指す姿勢が必要で、あるレベルに到達したらそのレベルを保とうとするのではなく、さらに上を目指さなければなりません。

 最近、私は(進捗を)「15%から20%」と言っていますが、これは単純に進捗したということではありません。目指している「頂」そのものが上がることもあるからです。25年も不祥事を含めていろいろありましたが、そういうことが起こると求められる頂も上がる。

 24年の今頃は日経平均株価が4万円弱、TOPIX(東証株価指数)が2700台だったのが、今(25年11月6日現在)は日経平均で5万円超え、TOPIXで3300台です。株価が上がることで、国内外投資家の目線も高くなる。24年と同じ期待感なら25%(2.5合目)に行っているかもしれませんが、頂が高くなれば完成度という意味では変わらない。定点観測という意味では、毎年答えがほぼ同じになるかもしれません(笑)。

――史上最高値圏の株高が続いているのは、東京証券取引所が進めてきたガバナンス改革も要因としてあるとお考えですか。

 要因の一つにはなっているでしょう。でも一番大きなドライビングフォース(駆動力)は、やはり「デフレからの脱却」です。2%を超えるインフレが3年半続き、企業もインフレを超える成長を取り戻すため積極的に設備投資やM&Aを行っています。

 実際、コーポレートセクターは明らかに成長を求めて動いています。24年のM&Aは4700件と最多で、25年も9月末までに約3700件ですから、おそらく最多を更新するでしょう。TOB(株式公開買い付け)も24年は年間100件でしたが、25年はすでに110件。MBO(経営陣による買収)も24年19件のレコードハイに対し、25年はすでに24件です。買い手は投資を積極化し、売り手は事業ポートフォリオを見直しています。

 一方でハウスホールド(家計)セクターを見ると、新NISAです。24年1月の開始以来、個人投資家から28兆円ものお金が市場に流入しています(25年6月末時点)。14年からの11年間で流入したのが63兆円ですから、その半分近くが1年半で入ってきた。

 しかも新規口座開設の48.8%、買い付け代金ベースの44.6%が40代以下です。彼ら(49歳以下)は1989年のバブル崩壊時、15歳未満。バブル崩壊の被害を受けていない新しい世代が、金銭的な余裕を持って投資に慣れ親しんできた。日本のエコシステムがガラッと変わってきています。

 ガバナンス改革ももちろん要因ですが、これは10年かけて進んできたものです。例えば取締役の3分の1以上を社外取締役が占める比率は、14年(当時の東証1部)は6.4%でしたが、25年のプライム上場企業で98.8%です。毎年少しずつ進捗し、誰も気が付かないうちに、誰もが気付くぐらいに進捗した。そこに23年3月「資本コストや株価を意識した経営」の要請も加わりました。

 ある意味、われわれはラッキーだったといえます。デフレ脱却や東アジアの地政学的な緊張の高まりを受け、世界的なアセットのアロケーション(資産配分)が起きた。

 もう一つは25年4月のトランプ関税です。事実として、1月から3月まで海外投資家は2兆円ほど売り越していました。あの関税でマーケットは一時的に下げましたが、4月以降に17週連続で海外投資家が買い越し、直近はネットで5.7兆円の買い越し、つまり4月から7.7兆円を買い越したのです。

 これは過去5年ほど続いた米国マーケットの独り勝ち、S&P500の4割を占める「マグニフィセント・セブン」(米テック大手7銘柄)がけん引する状況に対し、「米国セントリック(中心)のポートフォリオは危ない」と考え始めた投資家が出てきたということです。彼らが中国一辺倒だった投資を分散させ、さらに米国集中投資も分散させようとしたとき、その受け皿として日本が有力な候補になっているのです。

――ご指摘の通り市況は好調ですが、日本公認会計士協会の調べでは不正会計の数が5年でほぼ倍増しています。25年は特にAIスタートアップのオルツ、プライム上場のニデックで衝撃的な不正事案が相次ぎました。まずオルツですが、「市場の番人」によるIPO(新規株式公開)審査が突破された。なぜ見抜けなかったのですか。

日経平均は5万円を超え、TOPIXも高値圏で推移する日本市場。JPXの山道CEOは、市場の「エコシステム」が変わったと分析し、ガバナンス改革の継続に意欲を示す。その一方、25年はオルツやニデックなど上場企業の不正事案も相次いだ。東証はなぜ不正を見抜けなかったのか。次ページで山道CEOに問う。