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昨年、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。創業120年の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』の本稿では、「週刊ダイヤモンド」1989年8月5日号の特別レポート「サントリー 再生へ巨大投資構想 大規模M&Aを展開 課題は国内市場のテコ入れ」を紹介する。主力ウイスキー、オールドの不振をきっかけに低迷していたサントリーはグローバルM&Aをてこに反転攻勢に打って出ようとしていた。ただし、国内ではウイスキー事業とビール事業の立て直しが正念場を迎えていた。そのタイミングで、佐治敬三社長はこう宣言した。「私は貝になる」。発言の陰にあった、サントリーが抱えていた課題とは。(ダイヤモンド編集部)
サントリーが初の株式持ち合い
グローバルの巨額M&Aも視野
1985年に突如、業績が暗転したサントリーが、停滞続くこの5年間に放った最大のヒットは、ウイスキーやビールの商品群ではなく、売上高世界4位の英国アライド・ライオン社(ダイヤモンド編集部注:1994年にペドロ・ドメクと合併。合併会社、アライド・ドメクは2005年に仏ペルノ・リカールに買収された)との提携だった。
昨年10月のアライド社との資本の持ち合いによる業務提携は、世界の酒類資本の再編の嵐が吹き荒れる中、ようやくサントリーが旗色を鮮明にしたこと、1%とはいえ、創業89年目で初めてサントリーが株式を持ち合ったことで広く注目された。が、より着目すべきなのは、その提携の仕組み自体が考え抜かれ、実に工夫されたものであることだ。
まず互いに株式の持ち合いをした上で、アライド社製品の輸入販売代理店を日本にサントリー51%、アライド49%の合弁で設立、同時に、ちょうど逆の出資比率で、スイスに日本向けのアライド社全製品のライセンスを所有する合弁会社を設立した。
単なる輸入販売代理店契約に比べて、輸入販売権を守る仕組みが3重にかぶせられているわけだ。
提携のきっかけの一つは、オーストラリアのビール会社ボンドにアライドが買収されかかったことにある。現在、その動きは止まっているが、万が一アライドが買収されてもサントリーの輸入販売権は安泰な仕掛けなのである。
サントリーは、一昨年、ハーパー、マーテルという長年かかかって育て上げた製品を一方的な代理店契約解除で失った。合計150億円以上も売り上げていた成長商品であり、二度とこの轍を踏まない方法を必死で模索したのである。
しかも、安上がりであった。最初アライドとの交渉は、25%の株式の持ち合いから始まった。そのままでは数千億円の資金が必要であった。それが1%の株式所有資金200億円に加え、わずかな二つの合弁会社の出資金で、目的を達したのであった。
「週刊ダイヤモンド」1989年8月5日号
この提携の果実を実らせるか否かは、今後の輸入販売戦略次第なのだが、より重要なのは、アライド=サントリーが、世界的M&Aを狙っていることである。提携の指揮を執った佐治信忠副社長は、絶えずアライドと接触、情報交換を行っている。
英国ギネスがDCLを買収した金額は約7000億円、シーグラムはマーテルを約1200億円で手に入れた。「アライドが生き残りを懸ける買収なのだから、世界的に名のある会社が対象になる。ここ1~2年のうちに、1000億円単位の大規模なM&Aだ。そのとき、うちがどれだけ資金を提供できるかが勝負の分かれ目になる」――。そう語った後で、佐治敬三社長は「うちには9000億円の資金調達力がある」と言い切った。
あまり知られていないことだが、サントリーはここ10年の間に海外で買収を重ねてきている。米国ではウオーター会社を3社合計427億円で買収し、トップクラスに育てているし、ワイン事業では、欧州の四つのシャトーを130億円余りで手に入れ、再生させている。
アライドとの提携は、サントリーのスタッフが総力を挙げ、さらにクレディ・スイス・ファースト・ボストンという欧米を股に掛けた有力投資銀行を味方に付けた結果であった。彼らは、M&Aにおけるノウハウは十分身に付けている自信を持っている。国内外の金融機関からは、毎日大小の買収物件が10件以上持ち込まれる。サントリーは借入金を中心に現預金を増加させているが、M&Aの決断に、すぐさま対応するための資金手当てなのだという。
現在策定中の次期5カ年計画では、M&A計画に加え、各事業部が提出した必要資金を単純合計すると1兆5000億円に近づくという。今年の設備投資400億円という規模を考えれば、実施段階では縮小されるだろうが、膨大な資金需要が見込まれる。
次の5年は、エンターテインメント事業まで手を伸ばし、グループ売り上げを2001年には現在の3倍の3兆円にし、“超酒類企業”への脱皮を図る構想の第1段階なのである。財務担当の友松康夫常務は、「多少収益性が悪化しようとも、株主から足かせをはめられることのない非上場のメリットを生かして、21世紀をにらんだ大規模な投資を繰り返す」と公言してはばからない。







