高岡浩三の「企業の通信簿」#14Photo:Andrew Harnik/gettyimages

衆院選での自民党の歴史的な圧勝で、高市早苗首相は盤石の政治基盤を手に入れた。高市政権の経済政策は、カリスマ経営者の目にはどう映るのか。特集『高岡浩三の「企業の通信簿」』の本稿では、元ネスレ日本CEOの高岡浩三氏が、高市政権と日本経済の課題を浮き彫りにする。米トランプ政権とは対照的な、高市政権に“欠落”している要素とは?

 「目標」と「戦略」を履き違える日本の病理
「日本列島を、強く豊かに」に到達するシナリオの欠落

 今の日本を見ていると、まるで見当違いな治療を続けて“延命”させているような、強烈なもどかしさを感じます。

 政治の世界では「日本列島を、強く豊かに」「ジャパン・イズ・バック」といった威勢の良いスローガンが躍っていますが、経営者の視点から見れば、それらは単なる「目標(ゴール)」であって、そこに到達するための具体的な「戦略(ハウツー)」が完全に欠落しているからです。この「戦略なき掛け声」という日本の病を、米トランプ政権の冷徹な現実主義と比較しながら解剖してみましょう。

 日本の政治家や企業の多くは、「目標」と「戦略」を完全に混同しています。上場企業の中期経営計画を見ても、そのほとんどが「3年後に利益を幾らにする」という数値目標にすぎず、他社にまねできない独自のシナリオ(戦略)になっていません。

 高市政権の議論にしても同様です。「日本列島を、強く豊かに」「成長のスイッチを押しまくる」などといった言葉は躍るものの、具体的にその金を「どうやって稼ぐのか」という視点が抜け落ち、聞こえてくるのは赤字国債や増税といった国民の負担を増やす借金の話ばかりです。

 高市早苗首相が同調していたMMT(現代貨幣理論)的な発想で赤字国債を発行し続ければ、円安がさらに進み、物価高騰を招いて国民生活は身動きが取れない“デッドロック”に陥るでしょう。

 対照的なのがトランプ政権です。ドナルド・トランプ大統領の掲げる関税政策は、批判は多くあるものの、自由貿易の陰で損をしてきた先進国の中間層(製造業の労働者)に対する「手厚い保護」という明確なハウツーに基づいています。

 関税政策のブレーンの一人に、米保守系シンクタンク「アメリカン・コンパス」を創設したオレン・キャス氏という優秀な思想家がおり、自由貿易が招いた「国内の空洞化」を是正するために、あえて関税をかけて工場を呼び戻すという、非常に分かりやすく、かつ構造を変えるための戦略を持っています。

 反発はあっても、これなら確実に構造が変わるという「独自のシナリオ」を提示できている点が、日本の政治との決定的な違いです。