実際に、タンザニア南部のモザンビークとの国境の街、ムトワラ郊外のイメクワ診療所では、27歳のネスト・マサガニア氏がクリニカルオフィサーとして赴任していた。

 診療所では1日30人近い患者がマサガニア医師を訪ねてくる。病状は結核やマラリア、HIV/エイズの患者もいた。ときには出産にも立ち会う。医師としての経験がほとんどない急ごしらえの医師が、看護士わずか二人という陣容で、あらゆる病気に対応し地域の医療を支えている。

 タンザニアで活躍する日本人医療関係者は言う。

「保健財源も保健人材も足りないのが現状。タンザニア政府は医療従事者を増やそうと躍起になっており、3年程度のトレーニングを経て現場に派遣する。しかし、結核などに関する服薬指導や診断など、かなり専門的な知識が必要なことまで任されている。今後の課題は質の向上だ」

企業が望む成長性を得るには
医療分野の継続的な援助は必須

 タンザニアは世界基金などから、多額の支援がなされているが、現場に目を向ければ、まだまだ医療体制は脆弱だ。専門的な医療従事者が足りていないからこそ、冒頭で取り上げたサマータのような祈祷師も、重要な医療従事者の一人として医療体制のなかに組み込まざるを得ない。

 こうした状況は、先に結核治療に関して外部の援助に依存している状況を示したように、他の多くのアフリカ諸国で共通の課題として存在する。医療体制の脆弱性は、国によって違いこそあれ、似たような状況であることが想像できる。もし先進国が世界基金をはじめとした援助資金の減額をすれば、たちまち各国の医療体制は立ち行かなくなり、これまで地道に減らしてきた結核患者や、HIV/エイズ、マラリアといった他の感染症の患者も再び増えてくるだろう。

結核患者のジュディスさん。「子どもが感染していないか心配」と話す Photo:DOL

 テメケ地域のケコ地区で、在宅で投薬治療を受ける結核患者のジュディスさんはこう話してくれた。

「胸の痛みが続き、夜に咳と汗で眠れなくなった。今は家族からの援助で生活しているが、以前勤めていたオフィスのクリーニング会社は、結核が原因でクビになった」

 感染症であるが故に、感染すれば周囲からは距離を置かれる。クビになれば、収入源はなくなり、すぐに生活に困窮するようになってしまう。本来であれば、企業に勤め、収入を得て、いわゆる中間層と言われる人になっていたはずのジュディスさんは、結核によって社会の底辺に突き落とされてしまった。

 人々が健康でなければ、日本を含めた世界の企業が期待する、人口が増え続け、中間層の購買力があり、安定した成長を遂げるという市場の実現は難しいのではないだろうか。保健・医療問題の対策なしに市場の成長性ばかりに目を向けれていれば、感染症などの保健・医療問題が置き去りにされた脆い市場になってしまうだろう。