なるか造船復活 嵐の出航#3Photo:Bloomberg Creative/gettyimages

鋼材は船の建造コストの3割を占めるとされる。日本の造船業にとって、中国勢、韓国勢に比べて自国の鋼材が高いことは大きなハンディキャップだった。ただし、鉄鋼メーカー側も中国産鋼材の輸出拡大による市況低迷と国内需要の縮小に追い詰められており、衰退していた造船業を重視する余裕はなかった。船舶建造倍増を掲げる国策をきっかけに、これまでトップが対話してこなかった両業界がついに交渉のテーブルに着いた――。特集『なるか造船復活 嵐の出航』の#3では、両業界の対話で浮上した協力案を独自取材で明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

造船苦境の“戦犯扱い”に鉄鋼メーカーが激怒!
ただし、日中の鋼材コスト差は2倍との試算も…

 2026年3月、歴史的な会合が開かれた。今治造船の檜垣幸人社長や日本郵船の長澤仁志会長ら海事産業の業界団体トップと、日本鉄鋼連盟会長を務める日本製鉄の今井正社長が一堂に会したのだ。政府が船舶建造量を倍増させる目標を掲げる中で、民間として何ができるか。両業界がトップレベルで向き合うのは初めてのことだった。

 会合に至るまでには波乱含みの経緯があった。25年に造船業再生の機運が高まり、国土交通省は今後の道のりをまとめた資料を示した。その中で日本の造船業がコスト競争力で劣後している一因が、中国に比べて鋼材が2倍近く高いことにあると明記したのである。鋼材は船の建造コストの3割を占める。日本の造船所は多くの場合、日本の鉄鋼メーカーから鋼材を調達しているが、同資料は「海外を含んだ調達先の多角化」の必要性にも踏み込んだ。

 これに鉄鋼メーカーは強く反発した。政府与党が危機感を抱く造船産業の凋落の一因だと名指しされたことに憤りを隠さなかったのだ。

 しかし、造船業界にとって割高な鋼材コストは長年のボトルネックだったことは事実だ。これまでも価格交渉を申し入れたことはあるが、立場が上の鉄鋼側が門前払いしてきた。需要家と供給側を代表するトヨタ自動車と日本製鉄の値決めが「チャンピオン交渉」と呼ばれ、他業界でも指標となるのとは対照的に、造船業界の鋼材調達交渉が話題になることはまれだった。

 日本鉄鋼連盟によると、24年度の通常の鉄(普通鋼)の受注量は船舶用が8%で製造業の中で2番目に多いが、トップの自動車用は22%に上る。顧客としての存在感がまるで違う。造船業は中韓勢にシェアを奪われ、成長ストーリーが見いだし難かったことも鉄鋼メーカーに対する“交渉力”の低下につながった。

 そんな中、船舶の建造量を現状の2倍とする計画が打ち出され、鉄鋼側も協力に応じる余地が出てきた。造船側も「ついに値下げが実現するのか」と色めき立った。次ページでは、造船メーカーが鋼材コストに悩む構造を解説した上で、両業界のトップによる秘密交渉の中身を明らかにする。互いに一歩も譲れない両業界の間で浮上した“協力案”とはどんなものなのか。