なるか造船復活 嵐の出航#9造船所で溶接に取り組む作業員たち Photo:Trevor Williams/gettyimages

きつくて危険なイメージが根強い造船メーカーは、人材確保に苦戦している。特集『なるか造船復活 嵐の出航』の#9では、専業メーカー7社の社員がSNSに投稿した口コミと、政府の労災統計を分析し、造船業における労働の実態に迫った。全産業の中で造船業はどの程度危険なのだろうか。そして、労働環境の改善で期待される“切り札”とは何か。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

人手不足が造船業の最大のネック
平成、令和生まれは日ざらしの作業を敬遠…

 JR長崎駅からバスで15分。三菱重工業長崎造船所では、オーストラリア海軍が導入する「もがみ型」護衛艦の能力向上型と同系統の艦艇が建造されていた。2026年4月、三菱重工は、同国海軍の次期汎用フリゲート艦として、能力向上型もがみ型3隻の建造契約を結んだ。

 防衛装備移転を巡る環境も変わった。政府は同月、防衛装備移転三原則と運用指針を改正。従来、国産完成品の輸出は「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に限られていたが、この制約を撤廃し、護衛艦や潜水艦、戦闘機など殺傷能力のある装備品も、個別審査を経て輸出できるようにした。小泉進次郎防衛相は、同盟国・同志国の抑止力強化に資し、日本の防衛生産・技術基盤の維持・強化にもつながるとの認識を示した。

 防衛装備品の海外移転が進めば、防衛省だけを顧客としてきた日本の防衛産業が成長フェーズに入るのではないかという期待感がにわかに高まるが、実は、造船所がある地域での採用が活況を呈しているわけではない。

2025年11月、三菱重工業長崎造船所ではもがみ型の護衛艦が建造されていた2025年11月、三菱重工業長崎造船所ではもがみ型の護衛艦が建造されていた Photo by Shintaro Iguchi

 長崎の財界関係者が語る。「国策として造船を盛り上げる動きは歓迎する。ただ問題は、国が予算を付けても、実際に船を造る人がいるのかということ。雨風にさらされる現場が多く、夏は暑く、危険もある。昔は高校の卒業生も多く、給料も良かったから地元の若者から選ばれる理由があった。でも今は働きがいや安全・安心が重視される時代。(三菱重工に限らず造船業全体での)死亡事故の話を聞けば、親としては『雨風にさらされない安全な職場で働かせたい』と思う。かつては三菱が住宅や病院も含めて町そのものを支えていて憧れの職場だったが、その名残も薄れている」。

 空調の効いた屋内で体を酷使しない働き方を望む若者は多い。ソフトウエア関連の仕事が人気を集め、県内にはソニーグループや東京エレクトロン、SUMCOなど半導体大手の系列拠点もある。長崎造船所の採用力に陰りが出ているのだ。

 長崎県は25年に造船業振興を目指す産官学の会議体を設立したが、20年の県の調査では「今後有望と思われる産業分野」で造船業は最下位だった。造船所は「きつい」「危険」のイメージが強く、若者から敬遠されがちで、外国人材への依存も進む。国土交通省によると、25年の造船業就労者は外国人材を除くと6万2000人超で、15年から25%減った。他方、外国人材は全体の2割弱まで増えている。

 そんな中、最大手の今治造船では25年3月、技能実習計画の認定2134件を取り消され、30年3月まで5年間、技能実習生や新制度「育成就労」での人材受け入れができなくなった。発端は21年に発覚したクレーン点検不備だった。罰金刑が確定したことで重い処分に至った。外国人材を確保するには、受け入れる側の安全管理や職場環境の整備が一段と問われている。

 ダイヤモンド編集部は、企業の与信管理を支援するベンチャー企業の協力を得て造船メーカー7社の社員がSNSに投稿した口コミデータを分析。次ページでは、ネガティブ投稿の多い造船メーカーのランキングと労働環境改善策を示す。また、政府統計から労災死者数を他産業と比較して危険度を検証する。