なるか造船復活 嵐の出航#4Photo by Shintaro Iguchi

造船メーカーの経営者は2035年に船舶建造量の倍増を目指す政府計画をどう受け止めているのか。瀬戸内に拠点を構える尾道造船の中部隆社長を直撃すると、ある理由から目標達成が物理的に困難であることが判明した。特集『なるか造船復活 嵐の出航』の#4では、中部社長が考える次世代船のエネルギー源や、造船メーカー他社と船主会社を合弁した狙いについて率直に語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

「“普通の感覚”ではできない」造船メーカーの課題とは?
専業メーカーのサバイバル術を本音で語る!

――政府は官民の1兆円基金を創設するなどして、2035年に国内の船舶建造量を倍増させようとしています。同基金で、どのような設備投資をしますか。

 設備の更新と省人化を進めます。クレーンやロボットなどに600億円を投じる計画です。これまでにない規模の投資です。造船は工場内だけで完結せず、鉄鋼メーカーから調達した鋼材をブロック化して積み上げて船にしますが、その一部は外注しています。最新工場は門型のゴライアスクレーンで(ブロックの製造を)ほぼ内製できますが、尾道造船を含む古い工場は腕型のジブクレーンを使っており、瀬戸内の約20社に(ブロックの製造を)外注しています。建造期間短縮にはブロックの大型化が不可欠で、そのためには自社のつり能力向上に加え、外注先への支援も必要です。しかし、現状は十分に行き届いていません。

 詳細は今まさに詰めているところですが、今回の官民1兆円基金のうち、おそらく5000億円程度を民間が負担する見通しです。そうすると、単純計算で造船メーカー1社当たり年に25億円程度の減価償却費を計上することになります。年間に20隻を建造する場合は1隻の利益が1億円以上圧縮される計算です。今後10年間、ずっと利益を出し続けられるかは分からないので、定額定率での償却だけでなく一括で償却できるような柔軟性があると、(編集部注:納税額を圧縮でき)キャッシュを確保しやすくなります。

 中国政府は今も造船業に巨額の支援をしています。日本政府はこれまで重要インフラにあまりにもお金をかけなさ過ぎたのではないでしょうか。海運会社向けの船舶特別償却制度はありますが、産業政策を立案して造船業をリードする発想は感じられませんでした。

 われわれ造船会社にも良くないところはありました。造船は普通の感覚ではできません。常に苦しい。25メートルプールを最初から最後まで潜水で泳ぐようなイメージです。それなのに、市況が変わってもうかると赤字が一気に消えてしまう。それで一息ついて、いつまでも業界再編や設計の標準化が進まないのです。

 私は09年に社長になりました。リーマンショック直後でしたが、既に13年の分まで受注できていました。その後は、追加発注してくれたら安くする「水割り作戦」で16年まで黒字を確保。それ以降は21年までずっと赤字です。累積赤字は70億円近くまで膨らみました。22年に黒字化し、23年からは立て続けに50億円超の黒字で、あっという間に業績が回復しています。これ(海運市況によって業績が大きく左右される状況)が良くない。

 しかも、利益の正体は実質、円安です。船舶はドル建てで売買されます。今より円高に寄っていたころは年間20隻を造って売上高が550億円程度でしたが、今は12隻でも500億円です。上場企業がやるには酷な商売だと思います。株主総会で「為替と(生産コストに大きく影響する)鉄鋼市況次第です」なんて言ったら猛反発されるでしょう。

――600億円規模の投資計画が実現すれば、35年に建造量は倍増できそうですか。

次ページでは中部社長が、35年に船舶の建造量倍増を目指す政府計画が物理的に困難である理由を明かす。また、原子力が新燃料の本命といえる理由、さらに日本の造船所が強みを持つバルクキャリア(ばら積み船)の設計共通化の展望について、専業メーカーの経営者ならではの視点で舌鋒鋭く語る。