なるか造船復活 嵐の出航#7川崎重工業の荻野剛正執行役員は2016~19年に中国に拠点を置く合弁会社、大連中遠海運川崎船舶工程(DACKS)にナンバー2のポジションで出向し、日本側の取りまとめ役を担った Photo by Shintaro Iguchi

川崎重工業の造船部門が好調だ。造船を含むセグメントの2026年3月期の事業利益率は13%を見込み、航空機やバイク、ロボットをしのぐ「稼ぎ頭」となっている。高収益の秘訣は高付加価値船を日本で、汎用船を中国で建造する2面作戦にあった。特集『なるか造船復活 嵐の出航』#7では、知られざる川崎重工の中国造船事業の実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

総合重工の造船部門で随一の健闘ぶり
国内建造は「ヒット作」のLPG運搬船に絞る

 川崎重工業の造船部門を含むエネルギーソリューション&マリンセグメントの事業利益率は2025年3月期、11%を超えた。26年3月期には13%を見込み、全セグメントの中で最も高い利益率となる見通しだ。

 総合重工各社が造船の縮小や撤退を進める中で、造船が全社の「稼ぎ頭」となっている川崎重工は例外的な存在である。

 三菱重工業は長崎造船所香焼工場を売却し商船を縮小、旧三井造船(現三井E&S)も造船事業を切り離した。IHIや住友重機械工業、旧日本鋼管(現JFEホールディングス)、旧日立造船(現カナデビア)の造船部門も再編を経てジャパン マリンユナイテッド(JMU)に統合されている。

 そうした中で、川崎重工が社内に造船事業を残せている理由の一つは、「選択と集中」にある。船舶海洋ディビジョン長を務める荻野剛正執行役員は「昔は多くの種類の船を造っていたが、今は国内では液化石油ガス(LPG)運搬船に絞っている」と説明する。

 17年に商船部門の縮小を発表して香川県の坂出工場に集約した。LPG運搬船の連続建造に特化する体制を整え、年間4隻の引き渡しが続き、これまでに82隻の実績がある。

 日本の港湾は水深が浅いところが多く、中国や韓国で建造された船が寄港する際には、荷物を段階的に降ろして喫水(船の水面から下の深さ)を浅くしなければならない場合がある。川崎重工のLPG運搬船はこの点で差別化を図っている。日本の港に合わせた寸法で設計し、国内の船会社から使い勝手の良さで選ばれているのだ。

 国内に造船事業を残したことは、次世代を見据えた全社戦略においてもプラスに働いている。川崎重工は次世代のエネルギー源として水素を掲げ、水素のサプライチェーン構築に全社を挙げて取り組んでいる。船舶海洋部門では、その要となる液化水素運搬船の建造に注力しているのだ。

 神奈川県川崎市では液化水素の商用基地開発が進み、総事業費約3000億円のうち約2200億円を国が支援する見通しだ。中核は液化水素運搬船の建造で、容量4万立方メートルの世界最大級の船を28年に坂出工場で着工し、30年の竣工を目指す。

「液化水素運搬船は、水素社会の実現を目指す川崎重工全体の方向性に基づいている。仮に造船事業が苦しかった時代に分社化して他社と統合していたら、率先して取り組むのは難しかっただろう」(荻野氏)。

 新ジャンルの液化水素運搬船にも挑戦できた背景には、国内で高付加価値船であるLPG船に絞り込み、収益基盤を固めた他に、中国での展開がある。1990年代にいち早く中国へ進出し、汎用船の建造拠点を育ててきた。次ページでは、これまでベールに包まれていた川崎重工の中国での造船ビジネスの実態を明らかにする。長年、低収益に苦しんできた川崎重工の造船海洋部門の復活を中国のビジネスがけん引できた理由とは。