2018年に今治造船西条工場で竣工したLNG運搬船「CASTILLO DE CALDELAS」 写真提供:今治造船
造船復活に向けた政府支援が動きだそうとしている。中韓勢の後塵を拝して久しい「忘れられていた産業」だった造船業界。復活のラストチャンスに向けて奮起しようとしているが、実は、政府との間には温度差がある。最たる例が、2019年を最後に国内での建造が途絶えているLNG運搬船の生産再開だ。特集『なるか造船復活 嵐の出航』の#1では、LNG運搬船の建造再開に立ちはだかる「二つの壁」を明らかにするとともに、LNG運搬船にこだわる弊害を指摘する。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
貯蔵できないLNGは常に輸入が必要!
エネルギー源運ぶ“命綱”を海外に依存する現実
2035年に現状から造船の建造量を倍増し、新燃料船の技術で世界をリードする――。官民の1兆円基金で挑む政府の造船再生計画が目指す野心的な目標だ。この計画では液化天然ガス(LNG)運搬船の建造再開が重要課題と位置付けられ、官民による投資の方向性を検討する政府会合の資料にも記載されている。日本はLNG輸入大国であるにもかかわらず、運搬船を自国で建造できていない事実に自民党幹部が抱く危機感は強い。
25年は、米国との関税交渉をきっかけに造船業の復興に向けて政府が動きだした年だった。「今、日本はLNG運搬船を造っていないんですか」。自民党の経済安全保障推進本部で本部長を務めていた小林鷹之氏(現政調会長)から、日本郵船会長で日本船主協会の会長も務める長澤仁志氏に危機感をあらわにした電話がかかってきた。
LNGの安定輸入は、日本経済の生命線と言っても過言ではない。日本の24年度の電源構成でLNGは最多の32%を占めている。経済産業省によると、23年の時点で世界2位のLNG輸入大国だ。21年に中国に抜かれるまでは、1970年代からずっと世界1位だった。
天然ガスの利用拡大は世界的な傾向でもある。英Energy instituteの統計では、24年の天然ガスの供給量は前年より2.5%増え、過去最高だった。天然ガスは、世界のエネルギー供給量全体の25%を占める。一方で再生可能エネルギーが全体に占める割合は8%にとどまる。天然ガスは脱炭素社会までの移行期をしのぐ重要なエネルギー源であるだけでなく、長期的にも利用されていくとみられている。
一方、LNGの難点は、長期の備蓄ができないことだ。常温では気体になる天然ガスをマイナス162度以下に冷却して体積を600分の1にして、断熱素材で造られたタンクで輸送、貯蔵している。どうしても時間がたつと少しずつ気化してしまう。ホルムズ海峡封鎖の影響で化石燃料の貯蔵量が注目されるが、日本では2~4週間分しか貯蔵できていないとされる。基本的には、使う分をタイムラグなく船で輸入するしかないのだ。
日本海事協会によると、現在は韓国が世界のLNG運搬船の建造シェアの8割を占めており、現状では日本の海運会社も安定的にLNG運搬船を発注できている。ただし、中国の追い上げはすさまじい。建造シェアは11年に4%だったが、25年には19%にまで拡大。27年には25%に達すると見込まれている。中国のシェアが大きくなると、政情次第では要望通りに発注できなくなる恐れがある。LNG運搬船の自国建造は経済安全保障上、超重要ミッションというわけだ。
だが、“日の丸LNG運搬船”の建造能力を再構築するハードルは高い。LNG運搬船に官民のリソースを集中させ過ぎると、造船再生という大目標に支障を来しかねないのだ。次ページでは、過去36年間の日本、韓国、中国のLNG運搬船の建造量の推移を示し、立ちはだかる「二つの壁」を明らかにするとともに、LNG運搬船にこだわる弊害を指摘する。







