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造船業の再生が日本で急に盛り上がったのは、2025年の日米の政府間交渉がきっかけだった。米国が自国の造船業が衰退していることに危機感を抱き、造船における協力を求めてきたのだ。しかし、日本の造船業は、技術力はあるものの、建造能力や人材などにおいて、米国を助けられるほどの余裕はなく、それらの能力を急速に高めることも容易ではないのが実態だった。特集『なるか造船復活 嵐の出航』の#2では、日本の造船メーカーの世界シェアが中国と韓国に抜かれ、引き離された理由をひもとくとともに、米国が日本の造船業に期待することと、それへの日本側の対応にどんなズレがあるのかを明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
米国を助けようとするも、実は、日本も土壇場だった
「艦艇」での支援を求められたのに「商船」を強化する日本…
日本の造船業の再生は2025年ににわかに盛り上がった。きっかけは同年4月から本格化した米国のトランプ政権との関税率などを巡る交渉の中で、米側から造船における協力を求められたことだった。
米国の造船業の衰退は深刻だ。第2次世界大戦期には世界の造船建造量の9割を占めたが、現在は、商船分野はほぼ壊滅し、艦艇の建造能力も落ち込んでいる。米海軍は計画通りに艦艇を建造できず、コスト超過や納期遅延が常態化しているのだ。他方、中国の造船能力は米国の200倍以上もあるとされ、保有する艦艇の量でも米国を上回り、差を広げつつある。
トランプ関税の税率を下げるための交渉の糸口を探していた日本政府は、同盟国としての役割を強調し、造船分野での協力に前向きな姿勢を示した。だが、政府与党がこのとき日本造船の地盤沈下をどこまで自覚していたかは疑わしい。
韓国の造船大手ハンファオーシャンが米国のフィリー造船所を買収し、米国でのプレゼンス確保に踏み出したのとは対照的に、日本勢には海外投資に打って出る余力はなかった。米国が必要としていた砕氷船における協力で、ジャパン マリンユナイテッドの技術が貢献できる候補として取り沙汰されたが、最終的に採用されたのはフィンランドの砕氷船だった。沿岸警備隊が運用する砕氷艦が戦闘になった際の対応力で、ジャパン マリンユナイテッドの技術が、米側の要求水準に応えられなかった可能性がある。
日本政府も次第に、自国の造船業の実力を自覚していき、「米国を支える前に、日本の造船基盤を立て直す必要がある」との認識が広がって、造船再生の議論が本格化した。金子恭之国土交通大臣とラトニック米商務長官が25年10月に会談し、日米の造船能力拡大に向けた覚書を締結。両国で作業部会を設置し、米国の造船所への投資や人材育成、先進技術の導入を進める方針を打ち出した。関税交渉で合意した5500億ドル規模の対米投資にも造船分野が盛り込まれた。
ただ、もともと艦艇の建造、修繕での協力を求められていたのに、日本政府が再び振興しようとしているのは商船の分野であり、米側の期待と日本側の対応が、ちぐはぐになっているとの見方もある。商船と艦艇では、建造する技術者もサプライチェーンも異なるのだ。
元防衛官僚で地経学研究所の小木洋人主任研究員は「米国内の議論は日本の造船産業の現状を理解せずに協力を求め、日本側も何ができるか分からないまま産業振興のレトリックとして飛び付いているような状況だ。目的と手段がかみ合っていない」と指摘する。日米の艦艇建造能力については、本特集で後日詳報する。
このように、日本の造船復活の議論は、その端緒となった米国からの期待にいかに応えるかという論点からはややそれたものの、長年「忘れられていた産業」となっていた造船が一躍注目され、官民で再度振興を図る契機となった。
日本の造船業は、1960年代には世界シェアの5割を占める基幹産業だったが、足元のシェアでは中国がダントツの71%、韓国が14%。日本は8%と、ついに1割を切るところまで縮小している。
次ページでは、世界の受注シェアの推移と、10年代以降の日中韓が受注した船種の変化を示した上で、なぜここまで差が開いてしまったのかをひもとく。かつて造船で世界一だった日本と、後発の中国・韓国勢とのシェア争いにおいては、構造的な“不平等”があった。







