日産自動車のイヴァン・エスピノーサ社長(写真中央)が長期ビジョンを発表し、将来的に全モデルの約9割にAI自動運転技術を搭載する方針を示した Photo by Masato Kato
日本の電機メーカーは、なぜ薄型テレビで敗北したのか。その核心は「半導体チップ1枚」にあった――。日立製作所の元会長の中西宏明氏が遺した言葉が、時を経て自動車業界に突き刺さっている。連載『志賀見聞録 自動車産業の半世紀とミライ』の第9回【ミライ編4】では、クルマの知能化・ソフトウエア化が加速し、開発の主戦場が激変してきた50年史をひもとく。かつての電機業界と同じ轍を踏むリスクが高まる中、伝統的な自動車メーカーに活路はあるのか。(日産自動車元COO〈最高執行責任者〉 志賀俊之)
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半導体チップ1枚で競争軸が激変
日本製テレビが負けた理由
若い頃、海外出張で泊まるホテルには、必ずと言っていいほど、ソニー(現ソニーグループ)や東芝の日本製テレビがあった。だが、いつの間にかそれらは、韓サムスン電子や韓LG電子、さらには中国TCLといったアジアメーカーに置き換わっていった。
十数年前のことだが、日立製作所元会長の中西宏明さん(故人。当時は社長)と会食した際、私はこう尋ねた。
「なぜ、日本製の薄型テレビは競争力を失ったのですか」
中西さんは、右手の親指と人差し指で“小さな四角”をつくって、「(原因は)これですよ」と答えた。
半導体チップ――。チップ1枚あれば、どのメーカーでも高精細のテレビを作れるようになった。日本製が誇ってきた品質や性能の優位性は訴求できなくなり、やがて低コストで生産できる国の製品に市場を奪われていった、と説明してくれた。
そして最後に、一言こう付け加えた。
「クルマも半導体で競争力が決まる時代が来るかもしれませんよ」
当時、クルマの競争力の源泉は開発、生産、サプライヤーが三位一体となった“ハードウエアの擦り合わせ”にあると信じていた私は、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。
しかしながら、中西さんのその予言は、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化の四つの技術トレンド)という100年に1度の大変革の中で、現実のものになりつつある。本稿では、劇的に変貌した「クルマと半導体の関係」について考察したい。
にわかには信じ難いかもしれないが、私が1976年に入社した当時、日産自動車は半導体の内製化に取り組んでいた。







