Photo by Yuji Nomura
メディアがテクノロジーを駆使すれば、ビジネスとして成立する。その一つの解を体現しているのが、報道ベンチャーのJX通信社だ。AI(人工知能)を用いてインターネット上のビッグデータから災害や事件・事故の情報を抽出していち早く知らせる「FASTALERT」や独自技術による情勢調査サービスを主に報道機関向けに提供してきた。報道の現場にもAIが浸透しつつある今、メディアが取り組むべきことは何か。連載『メディア興亡』の本稿では、テクノロジーがもたらすメディア再生の鍵について、同社の米重克洋代表取締役に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 猪股修平)
「ニュース単体では売れない」を突破せよ
テクノロジーが切り開くビジネスと報道の両立
――これまで報道機関向けに「FASTALERT」や情勢調査などのサービスを展開しており、現在は自治体向けにもサービスを提供しています。これら事業の手応えはいかがでしょうか。
私たちは、テクノロジーでいかにビジネスとジャーナリズムの両立を実現するかを実践してきました。私自身ここ数年間、報道機関というものを新しくビジネスモデルとして再定義する場合、その一つの形はデータビジネスなのではないかと考えています。
私たちがFASTALERTで扱う災害や事件の情報は、報道機関でいう「発生モノ」です。最初は報道機関向けの情報サービスとしてつくりましたが、データビジネスとして、それぞれの領域で問題を解決できる可能性があるということに、個別のお客さまに向き合う中で気付きました。
例えば製造業ならばサプライチェーンのリスク管理、自治体なら危機管理や避難指示の発令といった防災上の判断、あるいはインフラのメンテナンスにつなげていける情報です。現在進行形でサービスを報道業界以外の分野に広げている点については、非常に手応えを感じています。
FASTALERT自体は、間接的に視聴者提供の映像探しや、取材の端緒をつかんで警察・消防に当てていくといった報道機関のインフラを支えることにもなっています。幅広い民間領域でご利用いただくことが、一つの下支えにもなっているのです。良い形でサービスを広げられていると思っています。
情勢調査の場合はまだ広げている段階なので、FASTALERTほど多業種ではありませんが、期間を追うごとに取り組みが広がっています。今は調査の過渡期でもありますので、これからも新しい情勢調査、世論調査の形をつくっていきたいと思っています。
そもそも社名に「通信社」と付けているのは、通信社が歴史的に見て「新しい技術やイノベーションを報道産業に持ち込み、業界の課題を横断的に解決する存在」であったと考えているからです。
英国のロイター通信の電信もそうですし、米国のブルームバーグも似たところがあります。今の厳しい報道産業の状況にあっても、テクノロジーで横断的に解決できる存在になりたいというのが由来でもありますので、ようやくそういうところに少しだけ近づいてきたかなという感覚を持っています。
――報道機関向けのサービス提供は、おっしゃった通り頭打ち感もあります。現在の課題は何でしょうか。
報道機関向けのサービスとしての改善は、情報の品質、速報性、網羅性の強化というところにかなり絞って考えています。UI(ユーザーインターフェース)、UX(ユーザーエクスペリエンス)といった使い勝手の部分は、ある程度出来上がっているイメージを持っています。
「より早く、正確な情報を、取り漏らしなく届ける」ことに価値を置き、新しいデータソースへの対応や、直近では偽情報・誤情報の課題に対する分析強化などを外部環境的な課題として捉えています。
一方で、私たち自身がビジネス的に成功して事業として大きくなっていくこと自体が、新しい報道機関の在り方やビジネスモデルの在り方を示すものになりたいという思いがあります。ですから一番大きな課題は、データビジネスとしてのFASTALERTを、いかに他領域の新しい産業や部門のニーズにフィットさせていくかという点にあります。
――御社はテクノロジーとジャーナリズムという両輪をうまく回している一面がある一方で、業界全体を俯瞰して見ると、ビジネスとジャーナリズムの両立という点で申し上げると、どうしても「ニュース単体では売れない」「報道以外の部門で主に稼いでいる」といった状況があります。メディアの財務基盤を強固にしていくヒントはありますか。
メディアの財務基盤を強固にすることに対して、私が意見を申し上げるのは非常にせんえつではありますが、あくまで「報道ベンチャー」という立場として業界全体の課題感で言うと、私が報道産業に対して思っているのは「人海戦術でアナログである」という点が一番のポイントではないかということです。
なぜ日本の報道機関は、テクノロジーの恩恵を十分に享受できず、苦境に立ち続けているのか。米重氏は、その根底に「編集と経営の分断」が生んだ、マーケットを無視したアナログな構造があると厳しく指摘する。次ページでは、アニメや漫画業界に学ぶ「V字回復」のヒントや、記者のバックグラウンドを持たないからこそ見える、AI(人工知能)時代に「勝てるニュース」の再定義に迫る。







