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米グーグルや韓国ネイバーとの異例の資本提携で独自の資本戦略を貫くnote。その快進撃の裏では、生成AIの学習に不可欠な「日本人の思考や経験」という膨大なデータが外資ビッグテックに相対的に安価な対価で開放されることへの懸念が強く、日本の知財利権を空洞化させかねない「データ争奪戦」のリスクも浮かび上がる。長期連載『メディア興亡』内の特集『note解剖』#4で明らかにする。(フリーライター 松田晋吾)
グーグルと対峙した元外交官CFO
専門知の集積が導いた合意
米グーグルとの交渉が水面下で動きだしたのは2024年7月ごろだった。従前からイベントなどで交流があり、AI関連の事業協業を探る中で、資本提携の話が持ち上がった。グーグルが国内上場企業に出資した前例はなく、交渉は前代未聞の難題となった。
noteの交渉の中心となったのが鹿島幸裕CFO(最高財務責任者)だ。東京大学法学部を卒業後、外務省に入省。米スタンフォード大学MBA(経営学修士)留学、外資コンサルなどを経て、18年にnoteに加わったキャリアの持ち主だ。
交渉のテーブルには、グーグルの各部署の担当者が次々と現れた。「なぜnoteなのか、noteと組むことで、自分たちのビジネスにどんなシナジーがあるのか」。それぞれの部署の立場から、厳しく問いただしてくる。世界トップクラスの企業との交渉では、投じる人数も時間も圧倒的に異なる。リソースの差は明白だった。
noteには25年11月末時点で、会員登録者数は1100万人を超え、MAU(月間アクティブユーザー)は8660万人。約7000万件ものコンテンツが集まっている。定量的な成長性は説明しやすい。
だが、noteに蓄積されたコンテンツは日本語だ。その質と独自性をどう伝えるかが最大の課題だった。「ユニークな専門性の高いコンテンツがたくさん集まっているというところは一番大きなアピール材料。日本においてどういう存在で、日本のマーケットでどれくらい親しまれているかというところは丁寧に説明した」(鹿島氏)。
交渉はウェブ会議が中心。スタンフォード大に留学経験を持つ鹿島CFOの堪能な英語が強みを発揮した。さらに、グーグル本社はスタンフォードにも近く、同校の卒業生が多いグーグル側との間で共通の話題が生まれることも、硬い商談の空気を和らげた。
上場企業であることも交渉をスムーズに進める上でポイントとなった。M&Aで最大の難所となる買収価格の交渉では、株式市場の株価を起点に議論を進められる。また、内部統制が整備されているとの信頼をしてもらえる。そのため、ビジネスの本質的な議論に集中できた。
世界最強のテックジャイアント、グーグルが国内上場企業への初出資。その交渉の最前線に立った鹿島CFOは、圧倒的なリソースの差を前に、いかにして「日本語コンテンツ」の価値を認めさせたのか。
水面下の交渉劇を経て勝ち取った提携は、noteを時価総額500億円のステージへと押し上げた。しかし、この華やかな蜜月関係の裏側では、ある懸念も首をもたげている。資本提携という「光」の先に潜む、プラットフォームが直面する真のリスクとは何か。次ページで検証する。







