かつてアインシュタインは、真理はシンプルにして美しい、と喝破しました。

 宇宙の法則に迫る相対性理論も究極はE=mc2という方程式で表されますし、人間に本質に肉薄するDNAの二重螺旋(らせん)も実にシンプルです。

 音楽はどうでしょうか?

 音楽は疑いなく人間が創る芸術です。が、同時に、基本的には、1オクターブの中にある12個の音の順列組み合わせで出来上がる物理的な現象とも言えます。無限にあり得る音の組み合わせの中から様々な音楽が生まれるのです。雑音にしか聴こえないものもあれば、人間の喜怒哀楽に絶妙に作用する響きがあります。無限の組み合わせの中で、どのような組み合わせが人間を感動させるのでしょうか? 人間の感情・心理と物理現象の音楽の間を司る真理というか公理のようなものがあるようにも思えます。

 と、いうわけで今週の音盤は「パッヘルベルのカノン」(写真)です。

誰もが知っているあのメロディー

 今や、パッヘルベルのカノンは知らぬ者なきメロディーと言っても過言ではありません。日常生活の様々なところで聴くこともできます。携帯電話の着メロ、TVの天気予報、歯科医院の待合室、ヴァイオリン教室、それから山下達郎の“クリスマス・イヴ”の間奏等々です。

 音楽は言葉にはできません。メロディーを言葉で説明することもできません。ですが、パッヘルベルのカノンには、あの何ともいえない明朗で美しく微妙に哀愁も感じさせるメロディーとハーモニーが溢れています。ご存知の方は、あのメロディーが頭の中に響き始めませんか?

 パッヘルベルのカノンが作曲されたのは、1680年ごろのことです。“音楽の父”と評されるJ.S.バッハが生まれる5年ほど前のことです。日本では江戸時代前期、4代将軍徳川家綱の治世の末期。新井白石が活躍した頃です。今から330年以上も前の音楽です。