あなたもカモになっている!
窓口で「新商品」をすすめられたら要注意

 投資信託はたくさんの本数が運用されていますが、買っても良いファンドと、悪いファンドとがあります。

 まず、安易に買うべきではない投資信託は、まさにこれから運用がスタートするという投資信託です。新しく設定される投資信託ということで、「新規設定ファンド」と言います。

 新しい投資信託が登場する際は、まず運用が開始される前日まで、一定期間の募集期間が設けられます。募集期間は投資信託によって異なりますが、大体2週間程度と考えて良いでしょう。この間に、販売金融機関を通じて新規設定の投資信託にお金が集められ、設定日に、そのお金で投資信託に組み入れる株式や債券が買い付けられます。この運用開始日のことを設定日と言います。

 こうして運用がスタートするわけですが、多くの投資信託は「追加型」といって、運用が開始された後からも、追加購入することができます。したがって、同じ投資信託でも募集期間中に新規設定ファンドを購入するのと、すでに一定の運用期間を経てから購入するのと、どちらが良いのかという話になります。

 もちろん、どの投資信託も新規設定というのはあるわけですから、すべての新規設定を否定することはできません。

 ただ、少なくとも投資信託を購入する投資家の側から見れば、過去の運用実績が全くない新規設定ファンドを購入するというのは、情報不足のなかで投資信託を購入することになるため、おすすめできません。

 一方、すでに一定の運用期間を経た投資信託の場合は、過去の運用実績、純資産残高の推移など、投資信託を選ぶための判断材料が揃っているので、やはりこうした過去の運用データがきちっと揃っている投資信託の中から、買える、買えないということを判断するべきです。

 つまり、投資信託を購入する際は新規設定ファンドではなく、すでに運用が行なわれて一定期間が経過した既存の投資信託の中から、自分が欲しいと思う投資信託を選ぶべきなのです。

「新規設定ファンド」を
おすすめされる理由とは?

 銀行などの販売金融機関は、既存の投資信託よりも新規設定ファンドをすすめたがります。理由はいろいろ考えられます。

 まず、販売金融機関としては、手数料を稼がなければなりません。したがって、販売担当者には個々に販売ノルマが課せられます。もちろん、表向きは、この手のノルマはないということになっており、なかには「販売目標額」などという言葉で誤魔化しているケースが見られますが、言葉は違っても実際の意味合いはノルマと同じです。

 販売担当者にノルマを課すことによって、少しでも多くの新規設定ファンドを販売させ、手数料を稼ぐのです。もちろん、既存ファンドでもノルマを課すことによって、販売することもできるという意見もあるかもしれません。

 しかし、既存ファンドの場合、すでに過去の運用成績などが明らかになっているため、仮にマーケットの状況が悪く、運用成績が大きくマイナスに落ち込んでいたりすると、売るのが難しくなります。だから、過去の運用成績がない新規設定ファンドの方が、販売金融機関にとっては「販売しやすい」ということになります。

 そして新規設定ファンドを中心に販売するという傾向が強まると、どうしても、投資信託の寿命は短くなります。そして前回ご説明したように、投資信託の平均保有期間は、現在、たった2.3年です。

 また、商品を買った後も注意が必要です。金融機関のおすすめファンドが運良く値上がりすれば「利益を確定しましょう」と売却をすすめられることが多いですし、下がれば「ほかにこんなファンドもありますよ」と乗り換えを勧められます。結局、そのファンドの成績が上がっても下がっても、販売している金融機関は、顧客に投信を売って、そのたびに購入時手数料が入ってくることになるのです。そして投資資金は、手数料の分は確実に減っていくことになります。

 投資信託の本場である米国の場合、設定されてから20年、30年と経過した長寿ファンドがあります。しかし日本の場合は、運用期間が短く、償還(運用を停止してしまうこと)を迎えてしまうファンドがたくさんあるのです。これは、販売力が強すぎる日本の投資信託業界のゆがみだと思います。

(次回更新は8/7です)

中野晴啓(なかの はるひろ) 
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。公益財団法人セゾン文化財団理事、NPO法人「元気な日本を作る会」理事。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。『運用のプロが教える草食系投資』(共著・日本経済新聞出版社)、『20代のうちにこそ始めたいお金のこと』(すばる舎)、『30歳からはじめる お金の育て方入門』(共著、同文館出版)、『年収500万円からはじめる投資信託入門』(ビジネス社)ほか多数。

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