今、日本で個人が買える投資信託は全部で3376本。しかし、その中で「今、手元にお金がなくても個人が安心して資産を作れる投資信託」は、3376本中、たった9本だけだった!個人投資家の味方であり、金融業界を20年以上見続けてきたプロである、セゾン投信・中野晴啓社長が上梓した『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』の中から、内容を抜粋してご紹介します。
投資信託は不幸な生い立ち?
証券会社の「道具」として使う商品だった
皆さんは、個人が投資信託を購入した場合の平均保有年数というのはどのくらいか、ご存知ですか?
何と平均でたった2.3年です!非常に短くて驚きませんか?これは一体、どういうことなのでしょうか。
そもそも投資信託という運用商品は、長期の資産形成を図る目的で作られているものです。
そうであるのにもかかわらず、2年とちょっとで、せっかく買った商品を手離してしまうのです。長い期間、投資信託を保有することで資産をふやしていくという「長期投資」を強力にお勧めしたい私にとっては、非常に暗澹たる結果といえます。
多くの投資信託の保有がこのように短期に終わってしまうのは、これまでの長い歴史のなかで、日本の投資信託は単なる手数料稼ぎの道具、つまり販売する金融機関が儲けるための商品としかみなされて来なかったからだと思います。
もっと言うと、日本の投資信託の出生そのものに、大きな問題があったともいえるでしょう。
戦後、日本の投資信託制度が整備されたのは1951年に現在の投資信託法(投資信託及び投資法人に関する法律、当初は「証券投資信託法」)が整備されてから。なぜこの制度ができたのかというと、当時、財閥解体によって停滞していた国内株式市場を活性化させるためでした。つまり、国策として投資信託が誕生したのです。
以来、国内金融市場、株式市場が停滞するたびに、投資信託が市場活性化の切り札として利用されてきました。
市場活性化の切り札、
手数料を稼ぐための「投資信託」
たとえば国債や社債のみを組み入れて運用する「長期公社債投信」というファンドは1961年に誕生しましたが、その誕生の理由は、高度経済成長のなかで、社債を発行して資金調達を試みた企業に、設備投資の資金を供給するのが目的と言われています。
1980年に誕生した「中期国債ファンド」は、日本が高度経済成長から安定成長に移行していくなかで発生した税収不足をおぎなうため、国が大量に発行した中期国債への資金供給を目的に設定されました。
最近注目されているETF(上場投資信託)や、REIT(不動産投資信託)なども、元をたどれば、低迷続きの国内株式市場、不動産市場を活性化させる目的で制度が整えられ、誕生してきたのです
もちろん、目的は国策でも、結果的に個人投資家のメリットになれば何の問題もありません。今、世界中の人々が多大な恩恵を受けているインターネットだって、元をただせば軍事技術の民生化だったのですから。
しかし、証券会社を中心とする販売金融機関は、国策のために作られたさまざまなファンドを売ることによって多額の手数料収入がもたらされたことから、投資信託が自分たちにとって、とても儲かる商品だということに気づきました。
そうなると、投資信託を販売する証券会社は、次々に自社の系列である投資信託会社(投信を設定して運用する会社)を設立し、自分たちが手数料をかせぐための投資信託(ファンド)をどんどん設定するようになったのです。
そして、そのうちに多額の手数料を稼ぐだけでなく、証券会社が自己売買によって損をこうむって、売るに売れなくなった株式を、系列の投資信託会社が運用しているファンドに入れ込むという、とんでもない行為も横行するようになりました。今から十数年前、投資信託のことを、業界関係者は「ゴミ箱」と言っていたものです。
さすがに、今はルールが整備され、自己売買で損をこうむった株を投資信託に付け替えるというような無法行為は行われなくなりましたが、それでもファンド=手数料稼ぎの道具、という側面は色濃く残っています。
その結果、日本の投資信託といえば、目先のブームに乗って個人が買ってくれそうな商品性のものばかりが設定され、ブームが去ると解約が相次ぎ、短命に終わってしまうということが繰り返されてきました。
そう、それは「窓口」で「おすすめを買わされ」、そのお勧め商品の旬が終わって、基準価額が下がり始めると「乗り換えさせられる」からなのです。販売する金融機関は何度も売買してもらったほうが、購入時手数料が入ってくるわけですから、「長期投資」なぞ勧めるはずはないのです。
残念ながら、これが真実です。