出向期間を経て
東京・福島の二拠点生活を開始

 阿部さんにとって福島は、それまで意識したことすらなかった無縁の地。しかし、この出向を機にどっぷりと地域の魅力に染まっていく。

「自然豊かなところももちろんですが、何よりも人の優しさに感動しました。市内の商店や飲食店に入るたびに、“この人たちはどうしてこんなに温かいんだろう”と驚いたんです。せっかくだからこの1年間を目一杯楽しもうと、毎日いろんな店を訪ねてまわるようになりました」

 都庁勤務時代より時間に余裕が生まれたことも幸いした。最初のうちはカフェなどを中心に目にとまった店を次々に訪ねていたが、やがて関心は夜の酒場へと移っていく。

 福島市内には、いわゆるオーセンティックバーと呼ばれる、昔ながらの本格的なバーが点在している。阿部さんはそこで夜な夜な、プロのバーテンダーからウイスキーの手ほどきを受けることになる。これがお酒の世界に対する興味の端緒であった。

「学生時代から、お酒は何でも人並みに飲んでいました。でも、あまり深く掘り下げることがなかったので、ひとつひとつのウイスキーにどういう味の特徴があるのか、どのような蒸留所で作られているのか、背景のストーリーに触れられるのがとても新鮮でした」

 すっかり福島の街とウイスキーの文化にハマってしまった阿部さん。こうなると、赴任期間の1年間はあっという間である。

 2022年の春、後ろ髪を引かれる思いで東京に戻った阿部さんだったが、福島で得た多くの縁をこのまま失うのはどうにも忍びない。何よりこの時、後の伴侶となるパートナーと福島で出会っていたこともあり、阿部さんは週末だけ住む家を福島市内に借りて、二拠点生活を決意する。

「金曜の退勤後、最終の新幹線で福島へ向かい、月曜の朝は福島から出勤する生活でした。だからこの時期は、いかに新幹線の切符を安く手配するかということばかり考えていましたね(笑)」

 仕事面では課長代理級のポストに昇進し、都庁の外郭団体に配属された阿部さん。平日は仕事に打ち込み、週末は福島を満喫する生活が始まった。いつか正式に福島に移住できれば――と夢見ながら。