就活を放り出してトラの撮影にインドへ、若き岩合光昭さんが選んだ「自分らしい生き方」動物写真家の岩合光昭さん Photo by Yukako Hiramatsu

世界を飛び回り、さまざまな野生動物やネコの写真を撮影してきた動物写真家の岩合光昭さん。そもそもこの世界に入るきっかけ何だったのか。そして、70歳を超えてなお精力的に活動し、新たなことにもチャレンジする岩合さんの「仕事論」とは?(取材・文/フリーライター 友清 哲)

野生のアシカに肩をトントンと叩かれる

――写真家を志したのは、やはり同じく写真家として活躍されていたお父さん(岩合徳光氏)の影響が大きいのでしょうか。

 そうですね。自宅の至る所に写真にまつわる本が置かれていたので、物心ついた頃から自然に興味を持つようになりました。もっとも、当初は動物写真家になろうと思っていたわけではなくて、どちらかといえばファッション誌に関心を持っていました。

 ファッションの写真というのは、光や構図が計算し尽くされていますから、そういうテクニカルなところに引かれていたのだと思います。

――その意味では、自然や動物というモチーフは、真逆の世界にも思えます。興味を持ったきっかけは?

 大学時代、かばん持ちとして父の撮影に同行した、ガラパゴス諸島での体験が大きかったですね。20日間ほど滞在したのですが、太陽が昇ってから沈むまで、動物たちが自然に合わせたリズムで生活しているのを間近に見て、新鮮な驚きがあったんです。

 たとえばイグアナは、潮が満ちて来ると海に潜って海藻を食べ、日が昇ると岩場で甲羅干しをします。非常に単純な生活なんですけど、それに比べると、毎日いろいろなものを食べ、いろいろな服を着て、当然のこととばかり島を勝手に歩きまわる僕たち人間の行動が、すごく不自然に感じられました。

――自然の法則や生物の実態に触れたことが、価値観に大きな影響を及ぼした、と。

 そうかもしれません。珍しい鳥類の巣なども至る所にあって、手の届くところで卵が孵化するような環境でしたから。海に飛び込むとアシカが寄ってきて、僕の肩をトントンと叩くんですよ。こんな体験、他所ではできませんからね。

――野生のアシカが、それほどヒトに慣れているというのは驚きです。

 同じ生物同士という感覚だったのではないでしょうか。わりと大きなオスだったので、おそらく彼としては威嚇のつもりだったんじゃないかな。「ここは自分の縄張りだよ」と。

 僕としては動物そのものよりも、こういうことが起こる、ヒトに変化を強いられていない場所に来られる仕事をしたいというのが、結果として動物写真家を志すきっかけになっていると思います。