社外取10821人の全序列【2026最新版】熱狂バブルの落とし穴#7Photo by Masataka Tsuchimoto

浜岡原子力発電所の基準地震動のデータ不正問題で第三者委員会の調査が続く中部電力。2016年から10年間にわたり社外取締役を務めてきた日本アイ・ビー・エム元会長の橋本孝之氏が、6月25日の株主総会で退任する。不正の端緒からエスカレートしていった全期間に在籍していた橋本氏は、経営の監視役としての任務を全うしていたのか。特集『社外取10821人の全序列【2026最新版】熱狂バブルの落とし穴』の#7では、引責の有無があいまいなまま去りゆく大物社外取への批判の声と、東京電力ホールディングスや関西電力との比較から中部電特有の「ぬるま湯ガバナンス」の病理を解剖する。(ダイヤモンド編集部 鈴木文也)

12年発端、18年エスカレートのデータ不正
当時から在任を続ける勝野会長と橋本氏

「原子力事業に対する信頼を失墜させ、同事業の根幹を揺るがしかねない事案であることを極めて深刻に受け止めております。多大なるご心配やご迷惑をおかけしますことを心より深くお詫び申し上げます」

 2026年1月、浜岡原子力発電所3、4号機の基準地震動策定のデータ不正に関する会見で中部電力の林欣吾社長は陳謝した。

 以下の図版が基準地震動のデータ不正を巡る主な経緯だ。

 社内でまとめた調査報告書によると、基準地震動データの不正は遅くとも12年ごろから始まった。基準地震動の代表波は225ケースあり、本来の策定方法は乱数の異なる20種の波形をランダムに作成し平均値を算出して最も近い波形を代表波として選出する。しかし中部電は1ケース当たり、20種の波形を1セットとして最大100セット用意し、その中から任意の代表波を選定していた。

 ただ、18年の審査会合で活断層の深さを8キロメートルより浅く設定するように指摘を受け、5キロメートルを基準に選定を実施。これにより、従来の選定方法では14~15年に設定した基準地震動「最大1200ガル」に収まる波が選定できず、あらかじめ代表波を選定した上で残りの19波も選ぶ手法を導入。聞き取り調査では、18~19年ごろに80ケースでこの手法が取り入れられていたとみられている。

 つまり、基準地震動を巡る不正は12年ごろに始まり18~19年ごろにエスカレートしたことになる。一連の選定は原子力土建部が担当していたが、関与者が他の部署にも及ぶのかは調査中としている。

 現取締役でこの期間に在任していたのは、勝野哲会長、林社長、社外取締役の橋本孝之氏と嶋尾正氏だ。このうち林社長は18年に、嶋尾氏は19年に取締役に就任。不正がエスカレートする以前から取締役を務めていたのは勝野会長と橋本氏の両名に絞られる。

 橋本氏は名古屋大学卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社し会長まで上り詰め、16年に中部電の社外取に就任した。

 中部電が橋本氏を社外取に登用した狙いは何だったのか。25年の統合報告書に記載された取締役のスキルマトリックスでは、橋本氏に対して「企業経営」「リスクマネジメント」「DX・事業開発」「グローバル・多様性」で専門性が求められている。

 データ不正を巡り林社長は「原子力部門の解体的再構築」という言葉を繰り返し述べた。現在は第三者委員会の調査結果を待っており進退を保留せざるを得ないとはいえ、公表から半年が経過し責任の所在が一部門に傾いている状況に、周辺からは不正当時から取締役に在任していた2人に進退を問う声も強まっている。

 なぜ、これほど長期に及ぶ原発データの不正を見抜けなかったのか。形式的なスキルマトリックスの裏側で、経営の監視役たる社外取締役が果たした「本質的な役割」への疑問が噴出している。次ページでは、株主総会での退任を前に批判の矢面に立たされることのない橋本氏へ向けられた地元のリアルな怒りの声と、東京電力ホールディングス(HD)・関西電力との比較から浮かび上がる中部電特有のガバナンス構造を明らかにする。