日本企業が世界と伍して戦っていくには、優秀な人材を世界から集める必要がある―――!これは、本連載『エリート人材獲得競争の最前線』を執筆する柴崎洋平さん(フォースバレー・コンシェルジュ代表取締役)の持論です。その思いには、起業前に務めていたソニーで、多くの優秀な先輩に囲まれて鍛えられた経験が色濃く反映されています。今回は、そのソニーの元CEOで現在は柴崎さんを応援する出井伸之さん(クオンタムリープ代表取締役ファウンダー&CEO)を迎えて、日本企業の採用や育成の問題点について議論します。
20年前の人口ピークアウトを機に
日本の成功体験はどんどん陳腐化!?
柴崎 日本の18歳人口は、1992年の220万人に対して現在は120万人にすぎず、20年間で4割以上も減少しています。にもかかわらず、企業は今までと同規模の採用を続けているので、どうしても全体的には人材の質の低下が避けられなくなっているのが実情ではないでしょうか。
出井 大学生の数自体はどのように変化していますか?やはり、少子化に伴って減少傾向を示しているのでは?
柴崎 実はその点がミソでして(笑)。1992年当時よりも目立って進学率が上昇しているため、大学生者の数は微増となっています。言い換えれば、昔と比べて大学に入りやすくなっているわけですが、企業側はあまりその点を意識しないまま、従来どおりの採用を続けています。
そして、海外からも新卒学生を採用しようと視野を広げる企業も出始めてはいますが、せっかく世界中から極めて優秀な人材を集めても、残念ながらすぐに辞めてしまうケースが後を絶ちません。多くの場合、大きな障壁となっているのが日本的な人事システムのようです。どうして日本企業は、過去の仕組みを変えられないのでしょうか?
出井 日本企業の多くは、20世紀後半の高度成長期、いわば日本における産業革命の後期に設立されています。企業は田舎から働きに出てくる人材を歓迎し、業績を大きく伸ばして、日本経済もさらなる成長を遂げるという構図が成り立っていたわけですが、こうした流れは柴崎さんが指摘した人口のピークアウトを機に止まってしまった。
にもかかわらず、国自体が戦後の成功パターンから抜け出せなくなっているんです。企業においても、多くは今ごろになって必死にグローバリゼーションに注力し始めましたが、もはや競争力の劣後や新興国の台頭は明らかで、かつてのような日本VS欧米といった単純な競合関係は成り立たないし、簡単にも勝てない。そして、新卒学生たちの親も、まだ日本が成長している途上に大人になっていった世代だから、価値観が今とは一時代分ずれていて、どうしても子どもはそれに感化されるでしょう。つまり、国も企業も個人も、あらゆる方面でマインドセットが時代遅れになってしまっているんです。だから、簡単には変えられないのだろうね。
柴崎 日本企業がみずからを変革できずにいる傍らでは、サムソンがインド工科大学の苦学生に米国シリコンバレーのトップ企業よりも好条件を提示するなど、グローバル企業は世界中のエリート獲得に力を入れていますね。
出井 サムソンが今後どうなっていくのか、非常に注目しています。日本企業を追い越して、今は完全に目標を見失っていると睨んでいるんです。その意味でも、インドをはじめブラジルなど新たな市場の拡大・開拓に乗り出すでしょう。
私が社外取締役を務める中国企業も日本のグローバル企業以上にグローバリゼーションが浸透しているから、新卒を毎年定数で採用する仕組みもなく、人材は必要に応じて獲得していくものだと合理的に考えている。また、中国清華大学のアドバイザリーボードも務めているが、同校の職員たちは「この講義なら世界トップの講師は誰で、いくらの給料を支払えば招聘できるのか?」といったディスカッションをしているわけです。みな視線は世界に向いている。こんな話、日本の大学では聞いたことがないよね。