実はやりがいを感じにくい仕事?
外部の評価を受けにくい人事部
柴崎 これだけ製造業を中心にグローバルな競争で苦境に立たされて、壊滅的な状態まで追いつめられていながら、それでも日本企業がなかなか人材採用や人事制度のグローバル化に乗り出せないのはなぜでしょうか?
出井 残念なことに、どこの企業も本社の人事部は外部と接していませんよね。
営業部は顧客から直接文句を言われるし、開発部も競合品よりも製品の性能が劣っていたら批判される。財務部にしても、IR(投資家向け広報活動)の席で投資家から問い質されます。そうやって外部と接することで様々なことに気づくわけだけど、人事部の場合は交流をもったとしても、せいぜい同業の人事部か労働組合にとどまってしまう。怒られることもない代わりに褒められることもないから、ひょっとしたら人事の仕事って、グローバル化以前にやりがいが感じにくいのかもしれません。
柴崎 ただ、いまだに多くの日本企業では、人事部への配属がエリートコースの典型パターンのような受け止め方をされていますよね。
出井 人事部がエリートコースだ、という受け止め方がおかしいよね。ただでさえ、日本企業の場合は、出世が年功序列のスロートラックなのだから。
先日、某大企業から弊社に転職したいという人物に、その動機を尋ねたら、彼はこう答えました。「今の職場では、10年後に自分がどのポジションに座っているかがすでにわかっているから」。
柴崎 どうにかして日本の人事制度を変えられないものか。そう思いながら様々な企業と接していて、しみじみ感じるのですが、年功序列であること以前に、日本ならではの終身雇用制度こそ、実力主義がなかなか成り立ちにくい主因ではないでしょうか。3~5年で転職するのが前提ならともかく、30〜40年と雇い続けていく場合は、実力があるからといって早々と昇格させるのは難しいですよね。しかしながら、今の時代も終身雇用を貫くことに、何らかのメリットはあるのでしょうか?
出井 日本の企業経営者の部屋で、「和」の一文字が書かれた色紙がよく見られますよね。要するに、彼らは調和を重んじる。そして、日本企業では3年程度のスパンで配置転換が行われるのが通例です。つまり、日本企業の人事に対するポリシーは「専門家は要らない」ということであって、終身雇用の下で「じっくり、みんなでやっていきましょう」というスタンスなわけです。
入社直後は血気盛んだったのに、3年も経つとすっかり疲弊している社員を何人も見てきましたが、終身雇用の企業が求めているのはマラソンランナーであって、スプリンターは要らないということなのでしょう。
柴崎 仰るようにマラソンであれば、社員たちはコースから足を踏み外してしまうリスクを恐れますよね。すると、どうしてもイエスマンが増えてしまい、結果的に社内改革がいっこうに進まないのではないでしょうか。
出井 それに関しては、雇われている側のサラリーマンにも責任があると思いますね。僕は若い頃、最初から3年ごとに異動するつもりで働いていましたよ。その職場にずっと籍を置き続けて課長になることなど狙っていなかったから、思ったこともハッキリと言えた。そして、「アイツはうるさいから」と上司に睨まれて、自分の思惑どおりにあちこちの職場に異動していったわけだけど(笑)。
振り返ってみてつくづく思うのは、1ヵ所にずっととどまっていた人より、社内でもいろいろな職場を経験してきたという人のほうが絶対に伸びるってことですね。
※後編に続く。次回は8/16公開です。