物理的な束縛と不自由のかわりに
発想やビジネスの自由な場を提供する

自由な仕事を獲得するには、少し不自由さがあったほうがいい<br />【企業インタビュー:DLE編】椎木隆太(しいき・りゅうた)
株式会社ディー・エル・イー 代表取締役 Founder & CEO
慶応義塾大学経済学部卒。1991年、ソニー株式会社入社。2001年、ソニー株式会社を独立後、有限会社パサニア(現 株式会社ディー・エル・イー)を設立。『トランスフォーマー』や『GI ジョー』、『パワパフガールズZ』等の世界的な大人気TVシリーズのプロデュースを手掛け、日本のアニメ業界では初の米国プロデューサー組合会員となる。2005年、FLASHアニメスタジオ開設。2006年、日本初の全編FLASH作品のテレビシリーズ『The Frogman Show』をテレビ朝日系列で放映、世界初の全編FLASHによる劇場映画『秘密結社 鷹の爪』を公開するなど、DLEを2年で日本のトップFLASHスタジオに成長させる。2009年4月からは、日本映像業界で初めて、フランスTV局向けにオリジナル番組『Kira Kira Japon』を企画・製作し、日本POPカルチャー紹介番組の放送を開始。2010年3月、福岡県知事顧問(海外戦略担当)就任。福岡県の海外向けブランディングをリードする。

本田 クリエイティブ職が多く、知的ハードワークを公言している御社ですが、意外にもいろいろなルールが決まっているそうですね。

椎木 自由を獲得するためには、不自由が大事な気がしているんです。自由を追求して、実は自由になっていない会社って、おそらくすごくあるんじゃないでしょうか。環境は自由だけど、やっているビジネスは全然自由じゃない、みたいな。DLEは、いろいろうるさく言う不自由な部分もあるけど、発想やビジネスはかなり自由なものを求めています。クライアントやテレビ局等もやんちゃなDLEを求めています。自由な仕事を獲得するには、少し不自由があったほうがいいんです。物理的な自由を求める人もいれば、仕事内容の自由を求める人もいる。自由は人それぞれ。DLEは物理的な束縛と不自由のかわりに発想やビジネスの自由な場を提供している会社なのです。水上を泳ぐ水鳥が実は水面下では足を必死で動かしているように、自由に優雅にやっているかのように見えて、見えないところでは束縛を受けているというのも大事ではないか、と。それでも優雅に見せることが、このジャンルの会社では必要だと思っています。

本田 背景には、自由であれば、発想が豊かになる、というわけでは必ずしもないという思いがあるのですね。給料に関しては、どうですか?

椎木 アニメ業界の中では比較的高いと思います。ただ、アニメ業界は、好きなことができるのだからそれでいいだろうと、とんでもない薄給で若者を使ってきた歴史がありますから、それは参考にはなりません。むしろ、そうではなくて安定的な生活が送れて、ちゃんと家庭を持てるような給与を出せる会社にしたかったんです。エンターテインメント業界ということでいえば、標準的な額だと思います。

本田 こちらには、社長室もなければ、部署の壁もないそうですね。

椎木 マスメディアやエンターテインメント業界が保守的になり、新しいチャレンジが減ってきた理由の一つが、セクショナリズムだと思います。この部署はこういうことを考えているけれど、うちの部署は違う、みたいな。実は意外に発想の自由がなくなってきている。発想の自由を生み出すためにも、部署の壁を含む様々な壁をなくすことが必要だと考えます。我が社が大事にしている3つのクロス「クロスメディア」「クロスボーダー」「クロスインダストリー」を実現するために重要なのが、発想の自由なんです。

 業界を超えない発想というのは、もはや魅力がない、と椎木氏は語ります。業界だけで戦っている人があまりに多すぎる現状がある。他業界とのコラボレーションや、他業界との仕掛けなど、独自の付加価値を生み出すためにも、発想の自由は欠かせなくなっている。そのためにも、オフィスを変える必要があった、というのです。