サテライトオフィスで仕事をすると、
みな元気になって東京に帰ってくる

寺田親弘(てらだ・ちかひろ)
1999年、慶応義塾大学 環境情報学部卒業後、三井物産に入社し、情報産業部門にて、コンピュータ機器の輸入、システム開発、Joint Venture立上等に従事した後、米国シリコンバレーに転勤となり、米国最先端ベンチャーの日本向けビジネス展開を担当。帰国後は、自らが持ち帰ったデータベースソフトウェアの輸入販売を、社内ベンチャーとして立ち上げる。その後、セキュリティ関連会社に出向し、経営企画・管理業務を担当。2007年5月に三井物産を退職し、4人の仲間と共にSansan株式会社を創業。2011年、The Entrepreneurs Awards Japan U.S. Ambassador's Award(駐日米国大使賞)受賞。

寺田 当社のオフィスは都市部にありますが、徳島県の小さな村の古民家に、サテライトオフィス「神山ラボ」を設けています。7LDKのスペースをわずか数万円で借りています。

本田 本社以外でも働ける場を提供しているんですね。

寺田 会社ができて2、3年して、エンジニアの様子を改めて見て、これではいけない、と思ったんです。満員電車に揺られてやってきて、壁に向かって十数時間も働いて、また帰っていく。これは、何かおかしいんじゃないかと。何か環境をうまく変えられないか。ただ、組織としての一体感も大事にしたい。自由にどこかに行っていい、とか、いきなり在宅でもいい、という感覚にはなれませんでした。そんなとき、徳島の神山で、山奥にWi–Fiが飛び交っているという話を聞きまして。

本田 徳島ですか。

寺田 調べてみると、このエリアは県の取り組みで大規模なインターネットのネットワークを敷いていたのだそうです。ところがほとんど知られていなかった。現地に飛んでみると、縁あって古民家をオフィスとして借りる、というアイデアが出ました。でも、社長が独断で決める話ではないと思って、会社に帰って、こんなサテライトオフィスはどうかな、行きたい人いるか、と聞いてみたら、思いの外、みんなが興味を持って、やりたい、と言うんです。それで、じゃあやろう、ということになった。

本田 それは、いつのことですか?

徳島のサテライトオフィスと。

寺田 2010年のことです。当初はサテライトオフィスなどという言葉はなく、順番に社員が行っていましたが、環境も次第に整備されて、今は毎月誰かしらが行っているほか、2013年の秋には徳島県出身のエンジニアが家族とともに神山町に移住しました。
町内に家を借りて神山ラボに通っています。
初めての現地常駐社員となった彼を中心に開発拠点として現地でのエンジニア採用も開始しています。
 コミュニケーションはスカイプを常時接続しています。ネットワークが提供されているため、通信費用はほとんど無料です。当初こそ違和感がありましたが、やってみるとスカイプにも慣れ、サテライトで離れていると東京と同じ仕事はできないのではないかという固定観念もあっさり壊れて、かなりのことができるとわかりました。

徳島のサテライトオフィス

本田 仕事にはまったく問題ない、と。

寺田 ちょっと淡く期待していたのは、明らかに生産性が上がるんじゃないかということでしたが、そういうわけではありませんでした。でも、少なくともサテライトオフィスで仕事をすると、元気になってみんな東京に帰ってくるんです。しかも、東京にいたときよりも長く働いていたりするんですよね。職住一致ですから。それには驚きました。転地効果といいますが、環境が違うだけでこんなにも変わるのかと。