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スマートフォンの理想と現実

マイクロソフトとノキアの“遅すぎた春”
その夢いっぱいの未来と、足もとに山積みの課題

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第49回】 2013年9月4日
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 もちろん、それぞれに事情はあった。マイクロソフトは、かつての独禁法違反以降、社内体制がコンプライアンス重視に傾いた。聞こえはいいし正しいことでもあるのだが、市場のダイナミクスと比較して、意志決定が官僚的になった。そんな環境に嫌気がさして流出したエンジニアを雇用したのは、アップル、グーグル、アマゾン。体制が弱まっただけでなく、敵に塩を送ってしまったのだ。

MWC2013のプレス・アナリストカンファレンスで講演するノキアシーメンスネットワークのラジーブ・スリCEO Photo by Tatsuya Kurosaka

 一方のノキアも、業績低迷からリストラを余儀なくされたが、関連資産があまりに膨張した結果、整理にも時間を要するという状況に陥った。先日も、通信機器(基地局等)大手のノキアシーメンスネットワークが、ノキアの完全子会社となったが、こうした作業はいまだ継続中である。

 残念ながら、それらはすべて「社内の事情」に過ぎない。市場は激しく動いており、彼らの事情を待ってはくれない。彼らなりにがんばってはいるし、着実に歩みを刻むことは確かに美徳ではある。しかし市場から評価されなければ、徒労に過ぎない。こうした状況を抜本的に改善できるかが、今回の買収の成否を握る重要なポイントとなろう。

 また、それに関連して、きちんと買収した果実が得られるのかは、十分見定める必要がある。スマートフォン市場に残されたフロンティアの一つが「法人需要」にあるが、これをマイクロソフトとノキアのタッグで、きっちりと回収していけるかが、大きな試金石となろう。

 スマートフォンの法人需要については、以前から関心が高まっている。一方で、BYOD(個人所有のデバイスを業務に持ち込む)をどのように解決するか、また企業システムとの連携をどう実現するかなど、課題は残されたままだ。企業システムこそ、マイクロソフトの独壇場。本来はこの領域を着実に積み上げていくことが市場のニーズにも沿うことになる。

 しかしマイクロソフトは、ここまでのところ、十分な対応ができているとはいえない。企業システムとの連携ではブラックベリーがデファクトだったが、すでに賞味期限を迎えているともいえる。マイクロソフトに対する需要家からの潜在的な期待を、ノキアとのタッグによって、今度こそ充足することができるのか。タブレットの普及がスタートしたこともあり、これも正しく「待ったなし」だろう。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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