小国スイスから考える日本の採用のあり方

 スイスの法律では、現在、10の大学(バーゼル大学、チューリッヒ大学、ジュネーブ大学など)と2つの工科大学(チューリッヒ連邦工科大学、ローザンヌ連邦工科大学)が正式な大学と認められています。ただし、職業高校を卒業してもこれらの大学への入学資格がなく、入学のためには「ギムナジアム(日本の高校に相当)」に入り直さなければなりません。そこで、大学に相当する高等教育機関が作られたようです。

 ドライフィス銀行という従業員200人ほどのプライベートバンクで働いている知人に、職業高校について詳しく聞く機会がありました。実は、ドライフィス銀行の新しい頭取も16歳から銀行で働き始めています。

 私の知人は、スイスの大学を卒業し、アメリカでMBA(経営学修士)を取得した人物です。そんな彼に、大学を卒業した場合と職業高校を卒業して働き始めた場合の生涯賃金の違いについて質問してみました。

 彼の友人は、16歳からトレーニーとして銀行で働き始めて、19歳で正式に銀行に就職しています。当時の初任給は月30万円ほどだったそうです。24歳で大学を卒業した私の知人の初任給と比べると、彼の友人のほうが給料がよく、月給が追いついたのは彼が32歳の頃だと言っていました。彼らは現在30代後半ですが、いまのところ大きな違いはないようです。

 これは日本ではあまり起こり得ないことではないでしょうか。就職する場合、卒業した大学によって就職先がある程度限られることとなり、そもそも、四年制大学の卒業が入社の条件となっている企業も少なくありません。しかし、少なくともスイスでは、実社会で働いた経験が高く評価されるため、大学へ行くことで経済的に得か損かということを簡単に判断するのは難しいのかもしれません。

 こうした制度は時計産業にも見られ、世界に名だたる高級スイス時計メーカーも、16歳から職人として学ぶことから始まっています。また、時計産業に限らず、教育の分野でも長い伝統ある徒弟制度が活かされているので、受け入れる企業も資格を持った担当者がいて、しっかりと若い人を教育します。

 このような実践的な職業教育システムとそれを評価する企業の体制が、スイスの低い失業率や強い経済を生み出している秘訣だと知人は強調していました。

 もちろん、人口800万人程度の小国であるからこそ、こうした制度が可能なのかもしれません。しかし、この小国から日本が学ぶことはたくさんあると思います。前回のお話にもつながりますが、日本の外に目を向けることによって、なぜ大学に入るのかを考える機会にもなるのではないでしょうか。


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