図表5は、世帯を対象に実施した調査ではあるものの、世帯全体での回答とは別に、個々の世帯員に回答してもらったうえで、年齢別に「過去1年間のインターネット利用経験者」の割合をみたものです。過去1年間に1回でもインターネットを利用したことがある人の割合をみています。

 70歳代の女性は、40%弱しかインターネットを利用していません。80歳以上の女性では20%弱です。これらをあわせた70歳以上の女性の46.7%が、旅行の計画を立<てるときにネットの検索サイトを情報源とするのは、どう考えても無理があると思われます。『旅行者動向2012』に掲載されたデータは、男性70歳以上などのデータにも、同じような問題点があることが明らかです。

 図表4でみたデータが、結果として旅行に行った人に限定したものなら、ここまではっきりとは批判できません。しかし、計画を立てる段階での話ですし、『旅行者動向2012』のなかの前項では、同じ調査に基づいて「旅行をしなかった理由」を分析しています。旅行をしなかった人も分析対象として、旅行の計画を立てるときのインターネット利用率(ネットの検索サイトを参考にした人の割合)をみていることになります。

 それなのに、過去に1回でもインターネットを利用したことがある人の割合よりも格段に高い割合で、インターネットを利用して旅行の情報を得ているというデータは、明らかにまちがっています。残念ながら、『旅行者動向2012』に掲載されたデータは、旅行ビジネスの参考にするには危険すぎるといえます。

日本のビッグデータ&統計学ブームはビジネスに悪影響

 なぜこんなことになったのでしょうか。ここからは推測ですが、調査データからインターネット調査であることの偏りを取り除く補正は、全体としては有効に機能しているのかもしれません。

 しかし、『旅行者動向2012』のなかで展開されている分析は、たくさんの項目について調査対象を細かく分けたうえでの分析をしています。この、細かくグループに分けたときのいくつかのグループにおいて、統計学的な補正がインターネット調査であることの偏りをほとんど取り除けていない、といったことが起きているのだと考えられます。