そこで、もっと旅行ビジネスのデータについて真剣に分析している資料を探して、たまたまみつけたのが、公益財団法人日本交通公社の観光文化事業部が発行している『旅行者動向2012 国内旅行マーケットの実態と旅行者の志向』(2012年)でした。詳細なデータを掲載していて、さすがに70歳以上のデータも調べています。

 ところが、その日本交通公社のデータも、“ビッグデータ&統計学ブーム”の落とし穴にハマってしまった典型例でした。いちばんわかりやすいのは、図表4で引用したデータでしょう。

 旅行の計画を立てるときの情報収集源について、複数回答可で調査した結果を、2008年調査と2011年調査で比較していました。表で整理してありましたが、そのうちの「ネットの検索サイト」の回答率だけを、男女別・年齢別でグラフ化したのが図表4です。

 「女性20代」でだけ、回答率が下がっていますが、他のすべての人たちでは、ネットの検索サイトと回答した割合が高まっています。ただし日本交通公社は、2008年と2011年とでは調査方法を変えています。2010年からインターネット調査に切り替えたのでした。

 先ほどの雑誌とは異なり、日本交通公社はインターネット調査への切り替えがもつ影響を意識しているのですが、それでも、きわめて不適切なデータ読解をしていました。調査方法のちがいが影響をもたないかのように、図表4に整理した回答率の変化を素直に解釈し、その下につけた脚注で、つぎのような解説を加えています。

 2010年から調査方法をインターネット調査に切り替えているため、これが結果にある程度影響している可能性があります。ただし、集計分析はインターネット調査に移行したことによる偏りを補正した上で行っているため、上記の変化は市場の変化を反映したものと考えられます。(日本交通公社『旅行者動向2012』94ページ)

 インターネット調査に切り替えたことによる影響(偏り)は、統計学的な手法できちんと補正していて、補正後の結果を示して分析している。だから、インターネット調査であることの影響を考えずにデータを読めばいい。これが、『旅行者動向2012』での日本交通公社の考え方です。

 しかし、たとえば「女性70歳以上」が「ネットの検索サイト」を情報源と回答した割合は、2008年では9.1%だけだったのに、2011年には46.7%にまで上がっていて、異常な変化にみえます。……実際に、異常な数字であることは、総務省によるインターネット利用率の調査と比べると、はっきりわかります。