尖閣以外にも領土拡大をはかっている中国

 ちなみに、中国が現在、領有権を争っているのは、日本の尖閣諸島だけではありません。フィリピン、ベトナム、ブルネイなどに対しては、一方的に中国領としての実効支配を進め、何の合意もないうちから自国のパスポートには中国領として明記するという暴挙にも出ています。このような傍若無人というべき強硬な対応を見ると、今のところ自衛隊の兵力が優れているからか、沖縄の米軍基地があるからか、日本に対する態度は相対的に「驚くほど平和的(!)」ということになります。実際、中国のネット上では、尖閣諸島に関する中国政府の対応は生ぬるすぎるとの批判が溢れています。

 中国の多くの人は、一連の領有権問題に関する紛争について次のように考えているようです。1840年のアヘン戦争以来、西洋列強や日本にいじめられて本来中国が所有していたものを取られたので、いま領有権を主張しているのは失ったものの回復措置なのだ、と。しかも、清朝は「大陸」にのみ固執して「海洋」を重視する必要性を感じていなかったことから、西洋列強や日本に攻め込まれる結果となったため、「海洋」に関しては回復措置というよりも、今度こそ海軍力を増強し、「海洋」を守り抜かなければ過去の愚を再び犯すことになりかねないという危機感が背景にあるようです。

 中国は、国家としても個人としても、弱者に対し徹底して見下した態度をとる傾向が顕著ですが、その例が中央アジアです。中国と隣接する小国、旧ソビエト連邦から分裂した国などには半ば暴力的に、合意もないのに自国領だと主張し、どんどん道路を建設して、自国以外の車はパスポートを見せないと通さない、という無茶をやってきました。「海洋」に関するベトナムやフィリピン、ブルネイなどに対する強硬な態度も、終始一貫してブレがありません。

 ところが、過去に中国が領有権問題に関する紛争で譲歩した国家が2つだけあります。

 ひとつは、ロシアです。中ロ国境の下線、黒竜江(アムール川)にある黒瞎子島(大ウスリー島)と銀竜島(タラバロフ島)は、もともと中国が実効支配していました。しかし、2004年10月の中ロ首脳会談で、2島を2分割することで基本合意し、2005年6月末、中国とロシアの代表団がハバロフスク市内で航空写真を間に挟み、中ロ国境の下線、黒竜江(アムール川)にある黒瞎子島(大ウスリー島)と銀竜島(タラバロフ島)における国境線を画定しました。

 もうひとつは、インドです。なお最終解決はしていませんが、基本的に平和的な解決を目指す姿勢を示しているようです。中国とインドは1950年代から国境問題を抱えてきましたが、2013年5月20日に中国の李克強首相がインドのニューデリーを訪問してマンモハン・シン首相と会談した際、事態打開に向けた協議を進め、双方が受け入れ可能な解決策を探ることなどで合意しました。

 ロシア、インドの両国はいずれも核兵器保有国であり、強者に対して中国は友好的態度をとったと理解できます。

はたして日本は、ロシア・インド組に入りたいのか、それとも悲劇の中央アジア組に入りたいのか。よく考えて、必要な対応を講じる必要があります。


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